第067話 疑念の声
広間に、重い沈黙が落ちていた。
ユイが語り終えた直後、誰も口を開かなかった。
カオスナイトの詳細な情報。
能力、弱点、戦闘パターン、討伐方法。
あまりにも具体的すぎる内容だった。
最初に口を開いたのは、セイラだった。
「なぜ、そんな情報を知っている?」
冷たく、鋭い声。
ユイは一度、息を整える。
「それは……」
「出どころは言えません」
セイラの青い瞳が、ユイを射抜く。
「言えない、か」
「はい」
「なら、信用できない」
セイラは腕を組んだ。
「あまりにも詳しすぎる。本で読んだ知識とは思えない」
「どこで、どうやって手に入れた?」
今度は、ハンスが低い声で問いかける。
ユイは答えられなかった。
前世の記憶だと言えば、誰も信じない。
狂人扱いされるだけだ。
「それだけは、言えません」
ユイは繰り返した。
「言えない理由があるのか?」
「はい」
「ならば、証拠にならない」
ハンスが静かに言う。
「情報の出所が不明なら、信憑性もない」
「あなたたちが隠していたのか?」
セイラの視線が、リリアたちに向けられる。
リリアは首を振った。
「違うわ。私たちも、ユイの情報源は知らない」
「知らない?」
「ええ」
カイルが頷く。
「僕も、今初めて聞きました」
「私も」
アイリスが続く。
「私も同じです」
セリスが小さく答えた。
エルザは黙って頷く。
セイラが眉をひそめる。
「お前たちも知らなかったのか?」
「はい」
リリアが答える。
「ユイは、カオスナイトの詳細情報を持っていることを、今まで教えてくれなかった」
「なぜだ?」
ハンスが尋ねる。
リリアはユイを見る。
ユイは深く息を吸った。
「今、挑めば全滅するからです」
「全滅?」
「はい」
ユイは頷いた。
「準備が足りない状態で挑めば、間違いなく全滅します」
「だから、隠していた」
「はい」
セイラが小さく笑う。
「準備が足りない、か」
「それが理由なら、なぜ今話した?」
「8名が揃ったからです」
ユイは真剣な目で答えた。
「これだけの戦力が揃えば、準備を始められます」
「準備、か」
ハンスが静かに呟く。
「だが、情報源は?」
「それだけは言えません」
ユイは繰り返す。
セイラが立ち上がった。
「それでは納得できない」
「お前の情報を信じろと言われても、根拠がない」
「俺は、証拠がなければ動かない」
カイルが、恐る恐る口を挟む。
「でも、ユイさんの情報は、今まで正確でした」
「正確?」
「はい」
カイルは頷いた。
「僕たちが受けた依頼も、ユイさんの判断で成功しました」
「私も同じ」
アイリスが続く。
「ユイの情報は、今まで外れたことがない」
リリアも言った。
「だから、私たちは信じてきた」
「だが、それは小規模な依頼だろう」
セイラが冷たく言う。
「幻モンスター討伐とは、次元が違う」
「確かに」
リリアが頷いた。
「次元は違うわ」
「でも、ユイは本気よ」
「本気なら、証明してみせろ」
セイラが鋭い目でユイを見据える。
「お前の情報が正しいという証拠を見せろ」
「証拠……」
ユイは唇を噛んだ。
前世の記憶は、誰にも見せられない。
「証拠は……」
「ないのか?」
「いえ、あります」
ユイは顔を上げた。
「ですが、今は見せられません」
「なら、話にならない」
セイラは腕を組む。
「俺は、証拠がなければ信じない」
「私も同じだ」
ハンスが低い声で続けた。
「倒せぬ存在を討伐する。それが本当なら、何か根拠があるはずだ」
ユイは黙っていた。
その沈黙を破ったのは、カイルだった。
「僕も……少し疑問に思っていました」
「カイル……」
ユイが視線を向ける。
カイルは申し訳なさそうに続ける。
「ユイさんが、どこで情報を得ているのか。僕も気になっていました」
「でも、信じてきました」
「だけど、今回は……」
「私も同じ」
エルザが短く言った。
「私も、疑問に思っていた」
ユイは息を呑む。
既存メンバーも、疑念を抱いていた。
それを、口にしていなかっただけだった。
セイラが冷たく笑う。
「お前たちも、信じきっていたわけじゃないんだな」
リリアが首を振る。
「違うわ。ユイは信じている」
「でも、情報源は知りたいと思っていた」
「それだけよ」
「それだけ、か」
セイラは立ち上がる。
「ならば、証明してみせろ」
「お前の情報が正しいことを、証明してみせろ」
ユイは深く息を吸った。
証明。
前世の記憶は使えない。
ならば、別の方法で示すしかない。
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