第065話 止まれない火力
3日後。
クロウフォールの拠点に、セイラ・アイスブレスが姿を現した。
青白い鱗を持つドラゴニュート種の女性が、広間の入り口に立っている。
「来てくれたんですね」
ユイが迎える。
「依頼を選んだんだろう」
セイラが低い声で言った。
「はい。短期決戦向きの討伐依頼です」
ユイは依頼書を広げる。
「王都北部の洞窟に出現した氷結蜘蛛の群れです」
「氷結蜘蛛」
セイラが繰り返す。
「推奨レベルは18。群れで行動するため、一気に片付ける必要があります」
「火力が必要な依頼ね」
リリアが補足した。
「分かった」
セイラが頷く。
「今回は、私とリリアとセイラさんの3人で行きます」
「前衛は?」
「今回は必要ありません。氷結蜘蛛は魔法攻撃に弱く、接近戦は危険です」
「なるほど」
短い返答。
3人は拠点を出発し、王都北部へ向かった。
洞窟は王都から約1時間の距離にある。入り口は狭く、内部は暗い。
「松明を準備しましょう」
リリアが光魔法で明かりを灯す。
「必要ない」
セイラが手を掲げる。
青白い光が集まり、氷の輝きが周囲を照らした。
「便利ね」
リリアが感心する。
洞窟内は湿り気を帯び、冷たい空気が漂っている。
「注意してください。氷結蜘蛛は天井から降りてきます」
「了解」
「分かった」
10メートルほど進んだところで、天井から気配が走った。
「来ます」
カサカサという音。
天井に、青白い蜘蛛が5体張り付いている。
「5体か」
「セイラさん、お願いします」
「任せろ」
セイラが前に出る。
手を掲げ、魔力が一気に膨れ上がる。
「氷結槍」
低く唱えた瞬間、巨大な氷の槍が5本同時に放たれた。
蜘蛛は一瞬で凍結し、次の瞬間には砕け散る。
バキン、バキン、バキン。
5体、全滅。
「終わりだ」
ユイとリリアは言葉を失った。
「一撃で……」
「当然だ」
だが、洞窟の壁と天井が薄く凍りついている。
「周囲も凍っていますね」
「ああ。俺の魔法は範囲が広い。制御が荒い」
「火力を上げると、範囲も広がる。味方がいれば巻き込む」
リリアが考え込む。
「でも、位置を把握できれば避けられるわ」
「戦闘中は動く。避けられないこともある」
「だから、俺は1人で動く」
ユイは静かに聞いていた。
「セイラさん」
「確かに制御は荒いです」
「分かってるなら、それでいいだろう」
「それでも必要です」
真っ直ぐな視線。
「あなたの火力があれば、短期決戦で勝てます」
「巻き込む」
「なら距離を取ります。あなたが撃つ時、私たちは後退します」
「簡単ではありません」
「ですが、訓練すればできます」
リリアも頷いた。
「続きましょう。奥にまだいるはずです」
さらに10メートル進む。
再び気配。
今度は10体。
「多いな」
「一気に片付けられますか?」
「できる」
「魔力消費は激しいですよね」
「ああ。持久戦には向かない」
「それで十分です」
セイラが手を掲げる。
「氷結雨」
無数の氷の矢が降り注ぎ、蜘蛛は次々と凍結し、砕け散る。
10体、全滅。
だが、セイラの呼吸はわずかに荒い。
「もう1戦は無理だ」
「短期決戦向きですね」
「ああ」
洞窟を出ると、外の空気が肺に染みた。
「私たちと一緒に来てください」
「条件がある」
「魔法を撃つ時、必ず距離を取れ」
「了解しました」
「それが守れるなら、考えてやる」
拠点に戻ると、全員が待っていた。
「セイラ・アイスブレス。今日から、クロウフォールの仲間になるかもしれません」
「まだ決めてない。条件付きだ」
「距離を取ること」
「了解です!」
「動けない」
ハンスが低く言う。
「俺は超重装甲だ」
「大丈夫です」
ユイが即答する。
「ハンスさんは盾で守ります。あなたの氷魔法にも耐えられます」
「問題ない」
セイラは全員を見渡した。
8名。それぞれ役割がある。
「考えておく」
そう言い残し、拠点を後にした。
沈黙。
「来てくれるわ」
リリアが微笑む。
ユイも頷いた。
止まれない火力。
それは、もうすぐ仲間になる。
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