第064話 氷の使い手
翌日、朝。
クロウフォールの拠点で、ユイ、アイリス、リリアの3人が集まっていた。
「今日はセイラを探します」
ユイが地図を広げる。
「王都東部の魔法訓練所ね」
リリアが指を差した。
「氷魔法の使い手なら、そこにいる可能性が高いわ」
「私も一緒に行くよ!」
アイリスが元気よく言う。
「では、3人で行きましょう」
ユイが頷いた。
3人は拠点を出発し、王都へ向かう。
東部は魔法使いが多く集まる地域だった。
魔法具店や魔法書店が並び、空気がわずかに違う。
「あった」
リリアが前方を指す。
看板には「東部魔法訓練所」と書かれている。
入り口には門があり、魔法使いが何人か出入りしていた。
「行きましょう」
3人は門をくぐった。
訓練所は広い。地面は石畳で、訓練用の標的がいくつも設置されている。
奥には建物があり、その脇には魔法陣が描かれていた。
ユイは周囲を見回す。
訓練している魔法使いは10名ほど。
火魔法を試す者、風魔法を練習する者。
だが、氷魔法を使う者の姿はない。
「いないですね」
アイリスが小声で言う。
「奥を見よう」
リリアが建物の脇へ向かった。
その時、奥から音が響いた。
バキン、と氷が砕ける音。
冷たく、鋭い。
3人は顔を見合わせ、奥へ進む。
訓練所の隅に、もう1つの空間があった。
そこで、1人の魔法使いが訓練をしている。
青白い鱗を持つ背中。
引き締まった体躯。
ドラゴニュート種の女性。
ユイの目が細くなる。
いた。
セイラ・アイスブレス。
訓練標的が10個ほど並んでいる。
セイラが手を掲げた。
青白い光が集束する。
次の瞬間、氷の矢が放たれた。
標的が一撃で凍結し、粉砕される。
バキン。
乾いた音。
アイリスが息を呑む。
「すごい威力……」
リリアも目を細めた。
「でも、周囲の地面まで凍っているわ」
確かに、標的の周囲の石畳が薄く凍っている。
制御が荒い。
セイラが再び手を掲げる。
今度は複数の氷の矢。
3つの標的が同時に凍結し、粉砕された。
だが、やはり周囲まで凍りつく。
「火力特化ね」
リリアが小声で言う。
「魔力消費も激しそうだわ」
訓練が終わったのか、セイラが手を下ろした。
その時、リリアが1歩前に出る。
「セイラ・アイスブレスさん?」
低い声が返ってきた。
「誰だ?」
セイラが振り返る。
青白い鱗。鋭い眼差し。
冷えた表情。
リリアは静かに微笑んだ。
「私はリリア・エインセル。こちらはユイ・セイラスとアイリス・フェンネル」
「クロウフォールという組織の者です」
ユイが補足する。
「クロウフォール」
セイラが繰り返す。
「聞いたことがない」
「まだ小さな組織です。ですが、あなたのような人材を必要としています」
リリアが言った。
セイラは3人を見渡す。
視線は鋭い。
「俺の力が必要?」
「はい」
「理由は?」
「あなたのような強力な攻撃魔法使いがいれば、クロウフォールの戦力は大きく変わります」
ユイが答える。
セイラは腕を組んだ。
「悪いが、興味ない」
即答だった。
「理由を聞かせてもらえますか?」
リリアが静かに尋ねる。
「連携なんて信用してない」
セイラが言う。
「足を引っ張られるだけだ」
「足を引っ張る?」
「ああ」
「俺の魔法は止められない。火力が強すぎて、巻き込む」
「だから、単独で動く方がいい」
アイリスが口を挟む。
「でも、1人じゃ限界があるよ?」
「限界?」
セイラが冷たく笑う。
「俺に限界はない」
「そんなことないでしょう」
アイリスが言いかけるが、リリアが手で制した。
「セイラさん」
リリアが静かに続ける。
「過去に、仲間と組んで失敗したことがありますね」
セイラの目が細くなる。
「なぜ分かる」
「あなたの言葉が、そう語っているわ」
リリアは淡々と言った。
「連携を信用していないのは、裏切られたか、失敗した経験があるからでしょう」
数秒の沈黙。
「そうだ」
セイラが低く答える。
「昔、仲間と組んだ」
「結果、失敗した」
「俺の魔法が強すぎて、仲間を巻き込んだ」
「それ以来、1人で動いている」
ユイは黙って聞いていた。
その言葉には、確かな重みがあった。
「だが、それでも必要です」
ユイが口を開く。
「なぜだ」
「あなたのような火力を持つ人は、他にいません」
ユイは真っ直ぐ見つめる。
「巻き込む可能性があるなら、それを前提に動きます」
「前提に?」
「はい。あなたの魔法の範囲を把握し、私たちが避ければいい」
「そんな簡単にいくか」
「簡単ではありません」
即答だった。
「ですが、やる価値はあります」
セイラは腕を組んだまま、黙っている。
リリアが続ける。
「あなたの力を、私たちに貸してほしい」
「条件なら聞いてやる」
「条件?」
「短期決戦の依頼で試す」
「俺の魔法がどれだけ使えるか、確認する」
「それで良ければ、考えてやる」
ユイは一瞬考えた。
短期決戦。
火力の確認。
悪くない。
「了解しました」
「では、依頼を選んで、また連絡します」
「分かった」
「連絡はどこに?」
「ここに来い。大体いる」
「了解です」
3人は頭を下げた。
セイラは何も言わず、再び訓練へ戻っていった。
訓練所を出て、東部の通りに戻る。
「すごい火力でしたね」
アイリスが言う。
「ああ」
「だが、制御が荒い」
「魔力消費も激しそうだったわ」
「短期決戦向きだな」
ユイは空を見上げた。
セイラ・アイスブレス。
圧倒的な火力。
だが、連携を信用していない。
仲間を巻き込んだ過去が、彼女を縛っている。
「拠点に戻ろう」
3人は王都を抜け、拠点へ向かった。
広間では、カイルとハンスが待っていた。
「お帰りなさい」
「どうだった?」
「条件付きで、仮加入を承諾してもらいました」
「条件?」
「短期決戦の依頼で、火力を試すことです」
「なるほど」
「それなら、適切な依頼を選びましょう」
ユイは地図を広げた。
短期決戦。
火力確認。
次の一手は、もう決まっている。
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