第060話 王都南部へ
朝日が差し込む広間で、クロウフォールのメンバー6名が集まっていた。
中央の机には、走り書きと地図が並べられている。
「ハンス・ストーンハート」
ユイがその名を声に出す。
「ゴーレム種の冒険者。超重装甲で、圧倒的な防御力を持つ。王都南部の訓練場で目撃情報がある」
「確実なんですか?」
カイルが尋ねる。
「確実とは言えない。だが、情報は複数ある」
アイリスが補足した。
「情報屋3人から同じ話を聞いたよ。南部の訓練場で、灰色の肌の冒険者がいるって」
リリアが頷く。
「種族的特徴とも一致しているわ。ゴーレム種は稀少だから、他の個体と間違えることはないはず」
ユイは地図を指でなぞった。
王都南部。そこには小規模な訓練場がある。
前世では、通ったことのない場所だ。
1人で戦っていたから、人の集まる訓練場など縁がなかった。
だが、今は違う。
仲間がいる。組織がある。
「私とカイルで向かいます」
ユイが決断した。
「リリアとアイリスは?」
「私たちは別ルートでセイラの情報を追うわ」
リリアが地図の東側を指す。
「氷魔法の使い手となると、魔法訓練所にいる可能性が高い」
「分かった。じゃあ2手に分かれよう」
ユイが頷く。
「セリスとエルザは?」
「私は拠点で情報整理するよ!」
セリスが明るく答える。
「私は依頼の選定をする」
エルザが短く言った。
「了解。それじゃ、行こう」
ユイとカイルは立ち上がり、装備を確認する。
黒銀の軽装鎧。短剣2振り。風の補助装具。回復薬3本。
カイルも盾と剣を手に取る。
「気をつけてね」
セリスが笑顔で手を振る。
「ああ」
ユイは軽く頷き、広間を出た。
王都へ向かう道は、朝の空気が心地良い。
馬車はまだ動いていないため、徒歩で移動する。
約30分ほどで王都の門が見えてきた。門番が軽く確認するだけで、2人は中へ入る。
南部へ向かうには、大通りを抜けなければならない。
商店が並び、朝の準備をする商人たちが行き交っている。
「ユイさん」
カイルが歩きながら言った。
「はい」
「ハンスさん、加入してくれるでしょうか」
「それは分からない」
ユイは正直に答えた。
「でも、交渉する価値はある」
「そうですね」
カイルが頷く。
2人は大通りを抜け、南部へ入った。
ここは商業区ではなく、訓練施設や装備店が並ぶ一角だ。冒険者が多く、空気が少しだけ違う。
「あった」
ユイが前方を指す。
看板には「南部訓練場」と書かれている。
入り口には門があり、冒険者が何人か出入りしていた。
「行きましょう」
カイルが先に歩き出す。
2人は門をくぐった。
訓練場は広い。土の地面に、いくつかの訓練用標的と木製のダミーが設置されている。奥には建物があり、その脇に武器架が見えた。
ユイは周囲を見回す。
訓練している冒険者が10名ほど。剣を振る者、魔法を試す者。だが、ゴーレム種の姿は見当たらない。
「いないですね」
カイルが小声で言う。
「奥を見よう」
ユイは建物の脇へ向かった。
そこで、音が聞こえた。
ドン、と地面を叩く音。
重い。規則的。
ユイとカイルは顔を見合わせる。
奥へ進むと、訓練場の隅にもう1つの空間があった。そこで、誰かが訓練をしていた。
巨大な盾を持つ背中。
身長は2メートル以上。
灰色の肌。
超重装甲。
ユイの目が細くなる。
いた。
ハンス・ストーンハート。
訓練相手は木製のダミーだ。だが、ダミーが攻撃する側で、ハンスは盾で受け止めている。
ダミーが勢いよく突撃する。
ハンスは動かない。
ドン。
衝撃が走るが、ハンスはまったく揺れない。
カイルが息を呑む。
「あの防御力……」
ユイも見入る。
圧倒的な耐久力。
前世で見た重装甲の戦士たちとは、次元が違う。
ダミーが再び突撃する。
ハンスはやはり動かない。
盾がすべてを受け止める。
訓練が終わったのか、ハンスが盾を下ろした。
その時、ユイは1歩前に出た。
「ハンス・ストーンハートさん?」
低い声が返ってくる。
「何の用だ」
ハンスが振り返った。
灰色の肌。赤い瞳。表情は無い。
ユイは真剣な目で見つめた。
「あなたの力が必要です」
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