第050話 風と火の連携
土煙の中、ユイは呼吸を整えた。
このままでは時間がかかりすぎる。別の手段が必要だ。
「セリス、足元を水で固定して!」
ユイが叫ぶ。
「了解!」
セリスが杖を掲げた。
「水よ、纏わりつけ!」
青い光が放たれ、魔物の根元へ走る。水が地面に広がり、土は泥へと変わった。
根が沈み込み、動きが鈍る。
「今だ、エルザ!」
「分かった」
エルザが影のように動く。魔物の左側へ回り込み、アイリスが見つけた継ぎ目に短剣を構えた。
魔物が枝を振るうが、泥に取られた足元のせいで動きが遅い。
エルザが跳ぶ。
短剣が継ぎ目に突き刺さった。
咆哮が森を震わせる。
枝が激しく振り回されるが、エルザはすでに距離を取っていた。
「効いた!」
アイリスが叫ぶ。
継ぎ目から樹液が滲み出している。
ユイは前へ出た。短剣で樹皮を削り、乾いた木屑を落とす。
「火をつける!」
左手を樹皮にかざす。
「火よ、灯れ」
掌に生まれた小さな炎が、木屑に触れた。
乾いた樹皮に火が移り、ゆっくりと広がっていく。
「風よ、吹け」
ユイが風魔法を放つ。
風が炎を煽り、火は一気に勢いを増した。
樹皮が燃え、炎が樹全体を包み始める。
魔物が激しく暴れ、枝が無秩序に振り回された。
「下がれ!」
カイルの声に、全員が距離を取る。
炎はさらに強まり、枝にも燃え移る。
魔物の動きが鈍くなり、炎が体力を削っていった。
「カイル、今なら倒せる!」
ユイが叫ぶ。
カイルは盾を捨て、両手で剣を握り直した。
「行きます!」
地面を蹴り、燃え盛る幹へ突撃する。
剣を振りかぶり、炎の中へ振り下ろす。
刃が幹に深く食い込んだ。
魔物が最後の咆哮を上げる。
幹に亀裂が走り、やがて巨体が傾き始めた。
地響きとともに、フォレストトレントは倒れ伏す。
炎は次第に弱まり、残ったのは立ち上る煙だけだった。
全員が息を整える。
「終わった……」
カイルが呟く。
「倒せたわね」
リリアが静かに微笑む。
「みんな、怪我は?」
セリスが心配そうに尋ねる。
「大丈夫です」
カイルが答えた。
ユイは倒れた魔物を見つめる。前世でも戦ったことはあるが、この規模は初めてだ。
「ドロップを回収します」
リリアが近づき、幹の光る部分を取り出す。
生命樹皮と根核だ。袋に収める。
「報酬はこれね」
「ギルドに持っていけば、銀貨に換えてくれる」
アイリスが説明した。
ユイは全員を見渡す。
「お疲れ様でした。拠点に戻りましょう」
全員が頷く。
森を抜け、馬車の待つ場所へ戻る。御者はそのまま待機していた。
6名は馬車に乗り込み、拠点へ向かう。
車内には疲労が漂っていたが、それ以上に達成感があった。
「初めての全員任務、成功だね!」
セリスが笑う。
「連携は取れてたわね」
リリアが言った。
「でも……」
カイルが小さく呟く。
視線が集まる。
「もっと重装甲の前衛がいれば、俺が吹き飛ばされることもなかった」
その言葉に、ユイは静かに頷いた。
「足りないものが、見えてきた」
カイルの盾では、あの巨体を完全には止めきれない。
より重い装甲、より強固な防御が必要だ。
「次の課題ね」
リリアが静かに言う。
馬車は拠点へと進む。
窓の外では、夕日が沈み始めていた。
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