第039話 組織という選択
北の森での討伐から数日が経った。
ユイは王都の宿、自室のベッドに腰掛け、窓の外を眺めていた。夕暮れの街並みが赤く染まり、行き交う人々の声が微かに届く。平穏そのものの光景だった。
だが、ユイの思考は別の場所にあった。
封印陣。複数存在する古代の封印。それらが連鎖している可能性。そして、観測者からのメッセージ。
ユイは窓を閉め、背を預ける。
前世では、一人で戦い続けた。38歳になるまで。仲間を作ろうとせず、誰かを信じることから逃げていた。その結果、誰も守れなかった。カイルも、他の多くの人々も。
今度は違う。
ユイは立ち上がり、装備を確認する。短剣2振り、黒銀の軽装鎧。窓の外では、夜が静かに近づいていた。
一人では限界がある。
知識があっても、18歳の肉体では力が足りない。さらに、世界の流れが前世とは微妙にずれている。封印陣の破壊、観測者の存在。予測できない事態が、確実に増えていた。
組織を作る。
本気で幻モンスター討伐に挑むための組織を。
ユイはベッドに横になり、目を閉じた。
明日、動く。
翌朝、ユイは宿を出た。朝日が石畳を照らし、商人たちが店を開き始めている。向かう先は、リリアの治療院だった。
治療院の扉を開けると、薬草を分類しているリリアの姿があった。銀髪のエルフは顔を上げ、ユイを見る。
「おはよう。今日はどうしたの?」
「相談があります」
リリアは手を止め、椅子を勧めた。ユイは腰を下ろす。短い沈黙の後、静かに切り出した。
「組織を作りたい」
リリアの緑の瞳が、わずかに見開かれる。
「組織?」
「本気で、幻モンスター討伐に挑むための組織です」
リリアは腕を組み、真剣な視線を向けた。
「クラウン結成ね」
「クラウン?」
「冒険者が特定の目的のために作る組織よ。ギルドの認可が必要になるし、人集めも拠点の確保も簡単じゃない」
ユイは頷いた。前世でも、その仕組みは知っていた。だが、自分で作ろうとしたことはない。
「でも、あなたなら」
リリアが小さく笑う。
「本気なんでしょう?」
「本気です」
「じゃあ、力になるわ」
その言葉に、ユイの胸の奥が静かに緩んだ。
リリアが最初の仲間になる。それは大きな意味を持つ。
治療院を出て、ユイはギルドへ向かった。リリアも同行する。朝の王都は活気に満ちていた。
「カイルさんにも話した方がいいわね」
「そうですね」
ギルドに着くと、訓練場へ向かう。広い砂地の中央で、カイルが盾を構え、素振りをしていた。銀のプレートアーマーに、朝の光が反射している。
「カイル」
リリアが声をかける。
カイルは振り返り、盾を下ろした。
「リリアさん、ユイさん」
ユイは真っ直ぐにカイルを見る。
「話があります」
一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
「何でしょう?」
「組織を作ります。本気で幻モンスター討伐に挑むための組織です」
カイルの青灰色の瞳が、ユイを見つめる。短い沈黙。
「幻モンスター……」
呟くように言い、問い返す。
「おとぎ話じゃないんですか?」
「いいえ」
ユイは短く答えた。
「実在します。そして、いずれ現れます」
カイルは表情を引き締めた。
「ユイさんが本気なら、俺もついていきます」
その言葉に、ユイは静かに頷いた。
「ありがとうございます」
リリアが腕を組み、言う。
「まずは、ギルドで詳しく聞かないとね。クラウンの仕組みを」
三人は訓練場を後にし、王都の街を歩き始めた。
「組織を作るって、大変なんですか?」
カイルの問いに、リリアが答える。
「人を集めて、拠点を用意して、ギルドの審査も受ける。でもね」
少しだけ笑みを浮かべる。
「やる価値はあるわ」
ユイは前を見た。ギルドの建物が視界に入る。
「まず、ギルドで詳しく聞かないと」
王都の街を見渡す。
ここから始まる。一人ではなく、仲間と共に。
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