第036話 守るべきもの
魔物の前足が振り下ろされる。狙いはカイルだ。盾を失い、無防備な状態のまま、その場に立ち尽くしている。
その光景を見た瞬間、ユイの胸が強く締めつけられた。
前世の記憶が蘇る。
別の魔物、別の戦場。
だが、同じ状況だった。仲間が盾を失い、無防備になり、迫る一撃に対して――ユイは間に合わなかった。
仲間は倒れ、命を落とした。
あの時と同じだ。
だが、今回は違う。
ユイは地面を蹴った。短剣を両手に構え、一気に距離を詰める。魔物の前足が迫る。速い。だが、軌道は読める。前世で積み重ねた戦闘経験が、身体を先に動かしていた。
短剣を交差させ、前足を受け流す。衝撃が腕に走り、骨が軋む。激痛が走る。だが、踏みとどまる。刃が前足を逸らし、爪がユイの頬を掠めた。血が飛ぶ。
「カイル、下がれ!」
ユイの叫びに、カイルがはっと目を見開く。即座に後方へ跳ぶ。次の瞬間、魔物の前足が地面を叩きつけた。岩が砕け、砂埃が舞う。
カイルは無事だった。
ユイはそのまま踏み込み、短剣を振るう。狙いは足元。鱗の継ぎ目だ。刃が食い込み、浅いながらも確かな傷を刻む。
魔物が悲鳴を上げ、後退しようとする。
その隙を逃さず、リオンとヴィクトルが前衛を押し上げた。二人の剣が左右から魔物を挟む。
リオンが足元を斬りつけ、ヴィクトルが首を狙う。魔物が前足を振るうが、ヴィクトルが剣で受け止める。反対側から、リオンの斬撃が走った。
エリナが杖を掲げる。
「炎よ、焼き尽くせ!」
赤い光が魔物の側面を焼く。炎が鱗を焦がし、魔物が怯む。
反対側から、グレンとロウが踏み込んだ。二人の剣が胴体を斬り裂く。狙いは同じく鱗の継ぎ目。黒い血が飛び散る。
アリスが弓を引き絞る。放たれた矢が一直線に飛び、魔物の目を貫いた。魔物が激しく咆哮する。
「効いたぞ!」
グレンの叫びとともに、魔物の動きが鈍る。視界を失い、明らかに体勢を崩している。
ヴィクトルが全員を見渡した。
「今だ! 総攻撃!」
号令と同時に、八名が一斉に動いた。
ヴィクトルの剣が首元を狙い、リオンが足元を斬る。グレンとロウが胴体に連続して刃を入れる。エリナの炎魔法が追撃し、アリスの矢が次々と突き刺さる。
ユイも踏み込んだ。側面に回り込み、短剣を振るう。一本目が脇腹を裂き、二本目が後ろ足を斬りつける。魔物の悲鳴が洞窟に響く。
カイルが剣を抜いた。盾は失ったが、まだ戦える。
「俺も行く!」
カイルの剣が前足を斬りつける。
ついに魔物が崩れ落ちた。巨体が地面に倒れ、轟音とともに砂埃が舞い上がる。
全員が武器を構えたまま、動かない魔物を見つめた。血が地面に広がり、呼吸もない。
「倒した、のか?」
グレンが呟く。だが、リオンは剣を下ろさない。
「まだ分からない」
ヴィクトルも警戒を解かない。
その時、魔物の体が淡く光り始めた。倒れたまま、全身が光に包まれていく。
「何だ、これは」
ロウが後ずさる。エリナが杖を構え直した。
光は強まる。だが、魔物の姿は消えない。完全には消滅していない。
倒れたはずの魔物が、なおも光に包まれている。
嫌な沈黙が、洞窟を支配した。
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