第032話 出陣の朝
朝日が王都ティリアスを照らしていた。ユイは宿の部屋で装備を確認する。短剣二振り、黒銀の軽装鎧、回復薬五本。全て揃っている。鎧の留め具を締め、短剣を腰に下げた。
今日から、討伐隊が出発する。
窓の外を見る。街はまだ静かだ。商人が店を開き始め、冒険者が朝食を求めて歩いている。いつもと変わらない朝だ。だが、ユイにとっては違う。今日は北の森へ戻る。あの魔物と、再び戦う。
ユイは部屋を出た。宿の主人に挨拶し、外へ出る。冷たい空気が肺に入る。息を吐くと白く霞んだ。
ギルドへ向かう。通りを歩く。足音が石畳に響く。
ギルドに着くと、建物の前にすでに人が集まっていた。八名だ。
ヴィクトルが中央に立っている。黒赤の重装を纏い、腕を組んでいる。その周りに、リオン、エリナ、カイル。そして他に三名の冒険者がいた。ユイは近づいた。リオンが顔を上げる。
「来たか」
「はい」
エリナが微笑んだ。
「おはよう。準備はできてる?」
「大丈夫です」
カイルが新しい盾を背負っている。前回の戦いで失った盾の代わりだ。
「ユイさん、おはようございます」
「おはよう、カイルさん」
他の三名は、いずれも見た目から経験豊富だと分かる。戦士が二名、弓使いが一名。全員がBランク以上だ。
ヴィクトルが全員を見回した。
「揃ったな。では、作戦を確認する」
ヴィクトルが地図を広げた。北の森が描かれている。
「目的は二つ。一つ、北の森の古代種魔物を討伐すること。二つ、封印陣を調査し、情報を集めること」
全員が頷く。ヴィクトルが続けた。
「役割分担を確認する。私が指揮と前衛を務める。リオン、前衛戦士。カイル、盾役。ユイ、側面支援。エリナ、後方魔法支援」
ヴィクトルが他の三名を指差す。
「グレン、ロウ、側面攻撃。アリス、遠距離支援」
三名が頷いた。グレンとロウは剣を腰に下げている。アリスは弓を背負っている。
「前回は五名で撤退を余儀なくされた。だが今回は八名だ。訓練も積んだ。討伐は可能だ」
ヴィクトルが地図を畳んだ。
「ただし、無理はするな。状況が悪ければ撤退する。全員無事に戻ることが最優先だ」
「了解」
全員が答えた。ユイも頷く。
「では、出発する」
ヴィクトルがギルドの横に停めてある馬車を指差した。大きな馬車だ。八名が乗れる。全員が馬車に乗り込む。ユイは窓際の席に座った。カイルが隣に座る。リオンとエリナが向かい側だ。
馬車が動き出した。御者が手綱を引き、馬が歩き始める。ギルドを離れ、王都の門へ向かう。
カイルがユイに話しかけてきた。
「訓練、頑張ってましたね」
「まだまだです」
ユイは答えた。カイルが笑う。
「いや、すごかったですよ。リオンさんたちとの模擬戦、見てました。最初はバラバラだったのに、最後は連携が取れてた」
「お互い様です。カイルさんも訓練を受けていたんですよね」
「ええ。盾の使い方を、もう一度基礎から学び直しました」
カイルが盾を叩く。金属の音が響いた。
「今度は、しっかり守ります」
ユイは頷いた。前世では、彼を守れなかった。だが今度は違う。
リオンが口を開いた。
「連携、忘れるなよ」
「はい」
「お前は一人で動く癖がある。それを直せ」
「分かってます」
エリナが微笑む。
「訓練で、だいぶ良くなったわ。実戦でも、その調子で」
「頑張ります」
馬車が王都の門を抜けた。街道に出る。北の森へ向かう道だ。
馬車の中は静かだった。全員がそれぞれ準備をしている。グレンとロウは剣の手入れをしている。アリスは弓の弦を確認している。ヴィクトルは地図を見つめている。
ユイは窓の外を見た。街道沿いに畑が広がっている。農夫が働いている。平和な光景だ。だが、北の森は違う。あの魔物がいる。封印陣がある。何が待っているのか、分からない。
ユイは視線を感じた。背後から。振り返る。だが、誰もいない。馬車の後方を見る。街道が続いている。人影はない。
観測者か。
ユイは前を向いた。気配は消えた。姿は見えない。だが、見られている。ユイは拳を握り締めた。観測者は、まだ見ている。だが、排除はされない。理由は分からない。
馬車が進む。街道を北へ。時折、他の旅人とすれ違う。商人、農夫、旅の冒険者。みな、北の森とは逆方向へ向かっている。
しばらくして、森が見えてきた。遠くに緑の塊がある。北の森だ。
カイルが窓の外を見た。
「見えてきましたね」
「ああ」
リオンが答えた。エリナが杖を握り締める。
ヴィクトルが全員を見た。
「間もなく到着する。準備を整えろ」
全員が頷いた。ユイは短剣の柄を確かめる。装備を確認する。回復薬を腰の袋に入れ直す。
馬車が森の入口に近づく。木々が視界を埋め始める。森は静かだった。鳥の声も聞こえない。
馬車が止まった。御者が振り返る。
「ここまでだ。森の中には入れない」
ヴィクトルが頷いた。
「分かった。ここで降りる」
全員が馬車から降りた。ユイは地面に足をつける。森の空気が鼻をつく。湿った土の匂いだ。
ヴィクトルが全員を見回した。
「ここから徒歩だ。前回と同じルートで洞窟へ向かう。警戒を怠るな」
「了解」
全員が答えた。ユイは短剣を抜いた。他のメンバーも武器を構える。
森の入口に立つ。木々が視界を遮る。奥は暗い。
北の森が、口を開けていた。
あの魔物が、待っている。
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