第211話 ゼックの本音
その時、ゼックが軽く近づいてきた。
「いやー、すごかったね」
その口調は軽いが、目が違う。古参の遊び人の、本当の顔が見えた瞬間だ。深い知識と、微かな疲労。戦闘を終えても、なお思考を続ける瞳。それはユイの想像を超えていた。
「何だ」
ユイは短く返答した。
「お前、本当に何者なの?」
ゼックが直球な質問をした。その問い方には、好奇心と警戒心が混在していた。質問ではなく、確認。そのニュアンスがユイには感じ取れた。
「ただの冒険者だ」
ユイは答えた。
「嘘。でも、いいや。面白いから」
ゼックが笑った。その笑顔の奥に、何かが隠れていた。相互の「興味」による接触。敵ではないことの確認。ただ、それ以上でも以下でもない。
ユイはゼックを見つめた。その目は何かを知っている。だが、彼女が秘密を暴露することはないだろう。理由は単純だ。ゼック自身も、秘密を抱えているから。互いに秘密を持つ者同士の、暗黙の了解。それがこの会話の本質だった。
「また会おうね」
ゼックが去っていった。
その背中を見ながら、ユイは思った。ゼックは何かを知っている。ラスティというパーティに属する理由。その背景。そして、ナオミという存在。すべてが繋がるような、そうでないような。正確には分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
ゼックは敵ではない。それだけで十分だ。
ユイはその話を誰にも言わなかった。話せば、不安が広がるかもしれない。だが、本当は別の理由だ。自分自身が、ゼックの秘密の正体を理解していないからだ。
前世での知識は、完全ではない。知識は、限定的だ。この世界はすでに変わってしまった。ゼックもまた、変わった世界の産物なのかもしれない。
ユイが席に戻ると、カイルが近づいてきた。
「ユイ、ゼックと何か」
カイルの問いは、警戒ではなく確認だ。
「何もない。ただの挨拶だ」
ユイが答える。
カイルは頷いた。盾役として、リーダーの判断を信じる。それだけだ。
その夜、三つのパーティは同じ場所で眠りについた。廃墟の外、安全な場所で。全員が無事に眠りについた。
その時、誰も気づかない場所で、何かが動いていた。




