第210話 レオンの変化
神殿跡の石壁に座ったまま、ユイは全員の状態を確認していた。
リリアとセリスの回復魔法は完了していた。ナオミも、ラスティの者らしく率先して全員の手当てに参加していた。その光景は、一週間前には想像もできなかったはずだ。三つのパーティが同じ場所で、同じ傷を癒すために協力している。
全員の傷が塞がった。17人全員が、ここにいる。
その時だった。
「ユイ」
声が聞こえた。低く、ぶっきらぼうな声。レオンだ。
ユイは顔を上げた。ブレイズウォールの指揮官が、自分に向かって歩いてくる。右肩に包帯を巻いているが、その歩みに迷いはない。戦士としての自負が、その動きに表れている。
「何か」
ユイは短く返答した。
レオンはユイの前に立ち、そのまま数秒間、何も言わない。その沈黙は、決断の時間だった。何かを言おうとしているが、言葉にするのに葛藤している。ブレイズウォール最強の指揮官が、こんな迷いを見せるのは珍しい。
最後に、レオンが口を開いた。
「……認める」
その一言だけだ。
ユイは、その言葉の重みを理解した。レオンにとって、「認める」ことは、何よりも大きな決断なのだ。プライドの高い戦士が、他者を認めるという行為。それがどれほど難しいか。
「お前の指揮は、正しかった」
レオンが続ける。その声はぶっきらぼうだが、その中に確実な敬意が含まれている。
「ありがとう」
ユイは短く返答した。長い言葉は必要ない。むしろ、短い返答の方が、この瞬間には相応しい。
「次に何かあれば、声をかけろ。協力してやる」
レオンがさらに言う。その言葉は、単なる口約束ではない。戦士としての誓いだ。次に何かが起きた時、自分たちはユイの側に立つ。そういう宣言だ。
「こちらこそ、手を貸してくれてありがとう」
ユイが返す。
レオンは頷いただけで、何も言わなかった。それで十分だった。
その歩みには、何かが変わったことが表れている。同時に、ユイは理解した。この瞬間から、何かが始まろうとしている。カオスナイト討伐。それは、単なる敵との戦闘ではなく、世界の均衡を破る出来事だった。そして、その波紋は、確実に広がり始めている。
三つのパーティが共闘した。最下位のクロウフォール。三位のブレイズウォール。四位のラスティ。その三つが肩を並べて戦った。そのことが、世界に何をもたらすのか。ユイは前世の知識から、その答えを知っている。だが、それを今すぐに言う必要はない。
今は、ここに全員がいることだけで十分だ。
ユイは再び、全員を見渡した。神殿跡の石壁に、三つのパーティが集まっている。疲弊しているが、誰も倒れていない。誰も死んでいない。全員が、ここにいる。




