↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第25章 余韻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
206/214

第207話 世界が震えた

戦闘は終わっていた。


ユイは短剣を握り直した。全身の筋肉が悲鳴を上げている。だが、その疲労さえも、戦いが本当に終わったことを証明していた。カオスナイトの肉体が最後の輝きを放ち、その存在が現世から消えようとする瞬間。その瞬間を、ユイは確かに感じ取っていた。


「全員、集合。負傷者の確認をする」


ユイの声は静かだったが、全員がそれに従った。クロウフォール、ブレイズウォール、ラスティ。三つの勢力の者たちが戦場に散った場所から集まり始める。灰色の廃墟の中で、彼らは全員が立っていた。倒れている者はいない。死んだ者もいない。


「全員、無事か」


ユイが確認する。


「はい。左腕に傷を負いましたが、戦闘には支障ありません」


カイルが報告した。その声には迷いがない。左腕の傷は深いが、カイルの眼光は揺るがない。盾役としての役割を最後まで全うした達成感が、その表情に滲み出ている。


「私たちのメンバーも全員生存。ザークスは重傷だが、命に別状なし」


レオンが短く告げた。ぶっきらぼうな口調だが、その中に確実な安堵が含まれている。右肩が深くえぐられているにもかかわらず、指揮官としての姿勢は崩れていない。


「ラスティも全員そろってます。さすがに疲れましたけどね」


ゼックが軽く笑った。その笑顔の奥に、深い疲労が隠れているのをユイは見抜いた。古参の遊び人は、本当の顔を隠すのが上手い。


全員が無事だ。それは、奇跡に近い結果だった。


ユイは戦場の隅に目を向けた。カオスナイトの残骸が、徐々に消えていく。朝日に照らされたその肉体は、昨夜よりも確実に小さくなっていた。その縮小は、物理的な崩壊ではなく、消滅に近い。残骸の端から、静かに光が散り始めている。その光は、まるで砂粒のように空気に溶けていく。


「あれが、消えていくのか」


アイリスがささやいた。その呟きは、他の誰にも聞こえないほど小さい。だがユイには聞こえた。偵察役の視覚は、細部を捉えている。


「そうだ。……知識が、正しかった」


ユイは短く答えた。


前世での記憶。幻モンスターの討伐後、その肉体は数日から数週間かけて消滅していく。その過程は決して急ではない。ゆっくりと、時間をかけて、元の世界へと還っていく。その過程を、ユイは今、目の当たりにしていた。知識が、現実と一致した。それは安堵感をもたらした。同時に、重圧感ももたらした。なぜなら、その知識の正確さは、もう一つの事実をも正確にしていたからだ。


「ユイ、大丈夫ですか?」


カイルが近づいてきた。その目は心配ではなく、確認の色だ。


「ああ。メンバーの状態を見ていた」


「そうですか。リリアとセリスが回復魔法を準備しているとのことです」


「わかった。ハンスはセイラを見ていてくれ」


ユイが指示すると、無言でハンスが頷いた。超重装甲の守護者は、セイラの肩に手を置いている。セイラは右足を引きずっているが、その目は冷静だ。


その時だった。


世界が、震えた。


物理的な揺れではない。だが、確かに何かが動いた。空気の流れが一瞬逆転し、光の角度が変わった。その変化は一秒未満で、戦場にいるユイたちにその詳細は把握できない。だが、その異変は確実に起きていた。


「何か、起きた……?」


セイラが呟いた。淡々とした口調だが、その中に違和感が含まれている。氷の魔法使いの感覚は、微妙な変化を察知する。


「戦闘の余波だろう」


レオンが判断した。その推測に、全員がうなずく。理性的で、戦場にいた誰もがその判断に同意する。


しかし、ユイの中には確実な疑問が残っていた。幻モンスター討伐による世界への影響。それは前世でも経験した現象だ。世界の均衡が破られ、新たな均衡が形成される過程。その過程で、様々な異変が発生する。今、その異変が起きているのだ。ユイはそのことを誰にも言わなかった。話せば、パニックになるかもしれない。だが、本当は別の理由だ。自分自身が、その異変の詳細を理解していないからだ。


「帰ろう」


ユイは言った。その声は静かだったが、全員に迷いがなかった。


「そうですね。王都まで、気を抜かずに進みましょう」


カイルが賛成する。その返答は即座だ。盾役は、リーダーの決定を信じている。


「了解」


レオンが頷いた。簡潔で、迷いがない。


「さあ、行きましょうか。面白い旅になりそうだ」


ゼックが立ち上がった。その口調は軽いが、その奥には何かが隠れている。


三つの勢力が並び始める。あり得ない光景だ。王都の冒険者ランキングで、最下位、3位、4位のパーティが肩を並べて歩く。その光景は、世界の常識に反している。だが、誰も疑問を呈しなかった。


その時、空白の地点の彼方で、かすかな光が消えた。その光は誰にも気づかれなかった。


シャドウ・ヴェール。観察者たちの組織。秘密拠点の奥深くでは、上司派が動揺していた。その施設の奥、暗い部屋で。


「7番柱の光が、消えた……?」


声にならない呟きが放たれた。その声の主は、顔色を失くしていたはずだ。報告を受けた瞬間、その体は緊張に包まれた。だが、その反応は、より大きな陰謀の一部に過ぎなかった。


同じ時刻、別の場所。


ザインは報告書を読み終わった。その内容は、彼の計画が正確に進行していることを示していた。ほぼ完璧に。カオスナイトの討伐。三勢力の共闘。世界への影響。すべてが、計画通りだ。


彼は静かに笑った。


「世界は、確実に動き始めている」


ザインの呟きは、誰にも聞かれることなく、室内に消えていった。その笑顔には、深い満足感が詰まっていた。計画の成功。その実感が、彼の内側に満ちている。


帰路での三つの勢力。その歩みの先には、新たな世界が待っている。世界が震えた。その振動の中で、何かが確実に変わろうとしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、

ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。