第203話 囮と対峙
第1隊が動いた。
カイルが先頭に立ち、大剣を構えて分身に向かう。
盾を失った今、彼の武器は剣だけ。右腕には痛みが走るが、無視する。
「こっちだ!」
叫び声が廃墟に響く。
ハンスが横に並び、石壁を展開した。
地面から隆起した岩の壁が、分身の一体を阻む。黒い影が壁にぶつかり、一瞬動きを止める。
だが、ハンスの石の体が軋んだ。
亀裂が、さらに広がる。
「ハンス、右!」
カイルの声に、ハンスが反応する。
右から迫る分身を、石壁が弾き返した。
マーヴィンが大剣を振る。
重い一撃が分身を捉え、黒い影が吹き飛ぶ。当たった瞬間、分身は霧散して消えた。
「1体消えた!」
ルークが後方から報告する。
フィンが叫びながら斬りかかる。
「レオン様のために!」
剣が分身を切り裂く。だが、浅い。分身は消えずに後退した。
グレンの炎が追撃する。
炎に包まれた分身が、苦しそうに身を捩り、やがて消滅した。
「2体目!」
残りは5体。
分身が第1隊を追いかける。
「いいぞ、引きつけてる!」
カイルが後退しながら、分身を誘導する。
廃墟の端へ。本体から離れる方向へ。作戦通りだ。
だが、足が重い。
体は限界に近い。それでも、止まらない。
ハンスが石壁を次々と展開し、分身の動きを制限する。
だが、その度に石の体が軋む。亀裂が増えていく。それでも、彼は笑っていた。
マーヴィンがその隙を突いて大剣を振り、分身を弾き返す。
重戦士二人の連携は、言葉を必要としなかった。
視線だけで意思疎通し、互いの動きを補完する。
フィンとグレンが左翼から炎で牽制する。
分身たちは炎を嫌い、右へ流れる。
リリアが後方から光魔法を放った。
魔力は枯渇に近いが、わずかに残った力で視界を確保する。
闇の領域の中に、一筋の光が走る。
分身たちがそれを嫌い、光から離れるように動いた。
だが、リリアの顔が青ざめた。
たったこれだけの魔法で、息が上がっている。それでも、光を出し続ける。
「5体を引きつけた! 残り2体!」
ルークの声が響く。
作戦通りだ。
第1隊が5体の分身を引きつけ、本体への道が開いた。
ユイは第2隊を率いて、前に出た。
足が震える。背中の痛みが、また戻ってきた。回復薬の効果が切れ始めている。
カオスナイト本体が、そこにいた。
漆黒の鎧。赤い双眸。黒い大剣。
威圧感だけで、空気が重くなる。
2体の分身が、本体の両脇に立っている。
だが、5体いた時よりも、明らかに隙が多い。
「行く」
ユイが短剣を抜く。
握る手に、力が入りきらない。
レオンが炎を纏った。
熱気が周囲に広がり、闇の領域を押し返す。
だが、左足を庇う動きが見えた。
「俺が正面を取る。お前たちは側面から」
「分かった」
ゼックが双剣を抜き、右に回り込む。
彼だけは、まだ余裕がありそうだった。消耗が違う。
セイラが左に移動し、氷気を放ち始める。
足元に薄い霜が広がり、地面が白く変色していく。
だが、いつもより氷の展開が遅い。
エルザが影に溶け込んだ。
闇の領域の中でも、彼女は姿を消せる。不安定だが、一瞬なら持つ。
「セリス、後方で待機。回復は私が合図したら」
「はい!」
セリスが杖を構え、距離を取る。
廃墟の高台に、第3隊が移動しているのが見える。
ノアが弓を構え、ナオミが魔力を集中している。アイリスが周囲を警戒している。
「足止めする。ノア、準備はいいか」
ユイの声が、闇の中を貫いた。
「準備完了」
遠くから、ノアの声が返ってくる。
カオスナイトが剣を構えた。
赤い双眸が、ユイを見ている。認識されている。敵として、脅威として。
「行くぞ」
レオンが駆け出す。
左足を庇いながら、炎がカオスナイトに向かって放たれた。
赤い炎が闇の中で燃え上がる。
カオスナイトの注意が、レオンに向いた。
ゼックが右から回り込む。
セイラが左から氷気を放つ。
エルザが影に溶け込む。
第2隊の布陣が、整った。
ユイは短剣を構えた。
握る手が震えている。それでも、止まらない。
これが、最後の戦いだ。
戦闘が、始まった。
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