第202話 作戦会議
作戦の細部を詰める時間は、わずかしかなかった。
カオスナイトの分身が、じりじりと距離を詰めてくる。
グレンの炎で牽制しているが、長くは持たない。分身たちは炎を警戒しながらも、確実に包囲網を狭めている。
ユイは素早く指示を続けた。
「第1隊の動き方。カイルとハンスが先頭、マーヴィンが右翼、フィンとグレンが左翼。三角陣形で分身を誘導する」
「了解です」
カイルが頷く。右腕を庇いながらも、大剣を握り直した。
ハンスとマーヴィンが視線を交わす。
重戦士二人は、言葉なく連携の形を決めていた。ハンスが左に動けば、マーヴィンが右を埋める。
だが、ハンスの石の体には深い亀裂が走っている。いつ崩れてもおかしくない。
「リリア、視界の確保を頼む」
「了解ですわ。魔力は残りわずかですが、光を灯す程度なら」
「無理はするな。断続的でいい」
リリアが頷く。顔色はまだ青白い。
「第2隊。本体との交戦だが、倒す必要はない」
ユイはレオンとゼックを見た。
「足止めだけでいい。ノアの狙撃が成功すれば、カオスナイトは弱体化する。そこから総攻撃に移る」
レオンが低く唸る。
「足止めか。俺向きじゃないな。俺は攻めるのが性に合っている」
「だが、お前の炎がないと本体を押さえられない。カオスナイトの闇を相殺できるのは、レオンの炎だけだ」
「……分かっている」
レオンは不本意そうだが、否定はしなかった。
ゼックが軽く口を挟む。
「俺は側面から削るよ。隙を作れればいい」
セイラが静かに言った。
「足元を凍らせる。動きを封じれば、隙が生まれる」
だが、彼女の氷の装身具は半分砕けている。
エルザは無言だったが、小さく頷いた。
「セリス、第2隊の後方で待機。回復は私が合図したら」
「はい……任せてください」
セリスが杖を握り締める。声に力がない。魔力は枯渇に近い。
「第3隊。ノア、封印陣の位置は分かるか」
「廃墟の中央。あの光が漏れている場所だ」
ノアが弓で示す。
闇の領域の奥、かすかに赤黒い光が脈打っている。封印陣の残骸だ。
「射線は確保できる。問題ない」
ナオミが言った。
「私が矢に魔力を上乗せするわ。貫通力を上げれば、陣の中核まで届く」
アイリスが二人の護衛に回る。
「任せて。誰も第3隊には近づけさせないから」
だが、彼女の腕には血が滲んでいる。
配置が決まった。
ユイは全員を見渡した。
17人。傷だらけで、疲弊している。回復薬で誤魔化しているだけ。
万全な者は、誰もいない。
だが、全員の目に、諦めの色はなかった。
カイルが壊れた盾を見つめ、呟いた。
「盾はもう使えません」
ハンスが横に立った。
「俺が前に出る。お前は剣で戦え」
「……はい!」
カイルの目に、決意が宿る。
フィンが拳を握る。
「レオン様のために、必ずやります」
グレンが炎を纏い、静かに答える。
「ああ。生きて帰るぞ」
「最後に一つ」
ユイの声が、全員に届く。
「誰も死ぬな」
短い言葉だった。
だが、その言葉に、全員が息を呑んだ。
「勝って、全員で帰る。それが目的だ」
レオンが鼻で笑った。
「当然だ。俺の部下は、俺が守る」
ゼックが肩をすくめる。
「死ぬつもりはないよ。まだ……やり残したことがあるしね」
その言葉には、いつもの軽さがなかった。
カオスナイトの分身が、ついに動き出す。
「第1隊、前へ」
ユイの声が響く。
「行くぞ!」
カイルが叫び、ハンスと共に駆け出した。
右腕の痛みを堪えながら、大剣を振り上げる。
ハンスの石の体が軋む。それでも、前に出る。
マーヴィンが横に並び、大剣を構えた。
フィンとグレンが左翼に展開する。
炎を纏った拳が、闇を照らす。
後方では、リリアが杖を握りしめていた。
魔力は枯渇に近い。それでも、彼女は立っている。
作戦が、始まった。
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