第193話 合流
レオンの炎が、闇を照らしていた。
ユイはその光を目印に、走った。足が重い。体中が痛い。頬の傷から、まだ血が滲んでいる。だが、止まるわけにはいかない。
「レオン!」
叫びながら、炎の方向へ向かう。闇の中を、手探りで進む。分身の気配がないことを確認しながら、慎重に、しかし素早く。
やがて、人影が見えた。
レオンだ。その横には、フィンとグレン。そして、地面に横たわるザークス。
「ユイか」
レオンが振り返った。その顔には、疲労と怒りが滲んでいる。だが、先ほどの暴走は収まっていた。ユイの言葉が、効いたらしい。
「ザークスは」
「生きている。だが、重傷だ。腹を貫かれた」
レオンの声が、低く沈んでいた。普段の傲慢さが、消えている。
ユイはザークスを見た。腹部に大きな傷。血が染み出し、地面に赤い染みを作っている。顔は蒼白で、呼吸が浅い。意識があるのかどうかも分からない。
「他の仲間は」
「分からない。闇の中で、散り散りになった」
ユイは周囲を見回した。闇が、依然として周囲を覆っている。レオンの炎が弱まれば、また完全な暗黒に戻る。仲間たちを探すなら、今しかない。
「ユイ!」
声が聞こえた。
セイラだ。闘の中から、駆けてくる。双剣を構えたまま、警戒を緩めずに。その後ろには、ハンスの巨体が見えた。
「セイラ! ハンス!」
「無事か」
セイラが言った。彼女の顔には、疲労の色が濃い。双剣を握る手が、微かに震えている。普段は決して見せない弱さだ。
「……なんとか」
ハンスが低く答えた。彼の鎧には、大きな亀裂が走っていた。胸部、肩、腕。至る所に、分身の攻撃を受けた跡がある。ゴーレムの頑強な体でなければ、とうに倒れていただろう。
続いて、カイルとセリスが現れた。
カイルは盾を持っていなかった。完全に砕けたのだろう。大剣だけを握りしめ、右腕には血が滲んでいる。顔には悔しさが滲んでいた。守るべき者を、守れなかった。そんな表情だ。
セリスがカイルを支えるように歩いていた。彼女自身も、疲労で顔色が悪い。回復魔法を使いすぎたのだ。
「カイル、セリス」
「ユイさん……! 良かった……!」
セリスの声が震えていた。涙が、頬を伝っている。恐怖と安堵が、入り混じった涙だ。
「皆さん、無事で……」
「まだ全員じゃない。リリアは。アイリスは。エルザは」
ユイが問うと、セリスは首を横に振った。
「分かりません……闇の中で、離れてしまって……」
その時、別の方向から気配が近づいてきた。
エルザだ。影から滑り出るように現れた。音もなく、気配も薄く。暗殺者の動きだ。その後ろには、アイリスがいた。
「……無事」
エルザが短く言った。感情のない声。だが、ユイには分かった。彼女も、限界に近い。
「リリアも、連れてきた」
アイリスが、リリアを支えていた。リリアの顔は蒼白で、足元がふらついている。魔力の枯渇だ。光魔法を使いすぎた。闇の領域を打ち消すために、全ての魔力を注ぎ込んだ。
「リリア」
「ユイ……さん……」
リリアが、かすれた声で言った。普段の丁寧な口調が、崩れている。
「申し訳……ありません……もう、光魔法は……」
「いい。よく持ちこたえた」
ユイはリリアの肩を支え、地面に座らせた。責めるつもりはない。彼女がいなければ、もっと早く全滅していた。
全員が、集まった。
クロウフォール8人。ブレイズウォール4人。計12人。
だが、その姿は悲惨だった。
カイルの盾は砕け、右腕は負傷している。ハンスの鎧には亀裂が走り、体力も限界に近い。セイラは疲労で顔色が悪く、魔力も残り僅かだ。リリアは魔力が完全に枯渇し、立っているのがやっとだ。セリスも、回復魔法の連続で気力が尽きかけている。エルザは無傷に見えるが、影に潜む力を使い果たしている。アイリスは戦闘向きではなく、情報収集が専門だ。
ブレイズウォールも同様だった。レオンは魔力を消耗し、炎の勢いが弱まっている。ザークスは重傷で戦闘不能。フィンとグレンも、傷だらけで疲労困憊だ。
ユイは冷静に、全員を見渡した。
戦える者は、何人いる。
自分。セイラ。ハンス。エルザ。レオン。グレン。
6人。それも、全員が消耗している。
「このままじゃ、全滅する」
ユイは呟いた。
その言葉は、自分自身への戒めだった。現実を直視しろ。希望的観測を捨てろ。
「ユイ」
セイラが、低い声で言った。
「……どうする」
その問いに、ユイは答えられなかった。
分からない。前世の知識は役に立たない。経験則は通用しない。
沈黙が、闇の中に広がった。
その時、空気が変わった。
闇の奥で、何かが動いている。気配が、膨れ上がっていく。
カオスナイトが、闇の奥で何かを始めようとしていた。
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