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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第23章 死線

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第189話 一対一

三体の分身が、ユイを囲んでいた。


赤い目が、闇の中で揺れている。じりじりと距離を詰めてくる。逃げ場がない。


ユイは短剣を構えたまま、呼吸を整えた。三体同時に相手をするのは厳しい。だが、やるしかない。


その時、異変が起きた。


三体の分身が、突然動きを止めた。そして、ゆっくりと後退し始めた。


「何……?」


ユイは警戒を緩めなかった。罠かもしれない。油断した瞬間を狙っているのかもしれない。


だが、分身たちは本当に去っていった。闇の中に溶けるように消え、気配が遠ざかっていく。


代わりに、別の気配が近づいてきた。


重い。濃い。分身とは比べものにならない圧迫感。空気が震えている。呼吸が苦しくなるほどの存在感。


本体だ。


闇の奥から、カオスナイトの本体が姿を現した。


身長は約3メートル。漆黒の鎧に包まれた巨体。手には、闇を纏った大剣。そして、二つの赤い目が、ユイを見下ろしている。


分身を退かせたのは、本体が自ら戦うためだった。


「私を、狙っているのか」


ユイは呟いた。


カオスナイトは答えない。ただ、ユイを見つめている。その視線には、明確な意思があった。殺意ではない。もっと深い何か。興味か。執着か。


分からない。だが、考えている暇はなかった。


「やるしかない」


ユイは短剣を構え直した。


風刃斬。


短剣を振り、風の刃を放った。一撃。二撃。三撃。連続で放つ。


カオスナイトは、動かなかった。


大剣を軽く振るだけで、全ての風刃を弾いた。まるで虫を払うかのように。力の差が、歴然としていた。


「効かない……」


分かっていた。風刃斬は、分身にすら通用しなかった。本体に効くはずがない。


だが、攻撃しなければ始まらない。


ユイは地面を蹴った。風魔法で加速し、本体に接近する。短剣を振り上げ、鎧の隙間を狙う。


カオスナイトが動いた。


大剣が振り下ろされた。ユイは横に跳んで回避する。大剣が地面に叩きつけられ、石畳が砕け散った。破片が飛び、ユイの頬を掠める。


「速い……!」


本体の速度は、分身と同じだった。いや、むしろ速いかもしれない。前世の知識では、本体は分身より遅いはずだった。だから、動きの速さで本体を見分けることができた。


なのに、今は違う。本体が、分身と同じか、それ以上の速度で動いている。


ユイは距離を取り、再び短剣を構えた。


カオスナイトが追撃してきた。大剣が横薙ぎに振られる。ユイは身を低くして回避した。風が頭上を通り過ぎる。髪が数本、斬り飛ばされた。


反撃。短剣を突き出す。だが、カオスナイトは軽く身を捻っただけで回避した。


当たらない。


ユイの攻撃は、確実に当たっていない。狙いは正確だ。タイミングも間違っていない。前世で磨いた技術を、そのまま再現している。


なのに、当たらない。


「なぜ……」


カオスナイトが、再び大剣を振った。ユイは後方に跳んで回避する。着地した瞬間、カオスナイトが距離を詰めてきた。


速い。反応が追いつかない。


大剣が振り下ろされる。ユイは短剣で受けようとした。だが、力の差がありすぎる。弾き飛ばされ、地面を転がった。


「くっ……!」


すぐに起き上がる。だが、体が重い。息が上がっている。


前世の経験則が、通用していない。


38歳の自分なら、この程度の攻撃は楽に回避できた。反撃の隙も、確実に見つけられた。だが、今は18歳の肉体だ。経験と知識はあっても、体がついてこない。


反応速度が、足りない。


筋力が、足りない。


スタミナが、足りない。


全てが、足りない。


カオスナイトが、ゆっくりと近づいてきた。急いでいない。余裕がある。ユイが逃げられないことを、分かっている。


ユイは短剣を構えた。手が震えている。恐怖ではない。疲労だ。握力が落ちている。


「まだ……」


立ち向かうしかない。逃げても、闇の中では方向が分からない。仲間のところに戻れる保証もない。


ならば、ここで戦うしかない。


ユイは再び地面を蹴った。風魔法で加速し、カオスナイトに接近する。


本体の動きを読む。大剣の軌道を予測する。回避のタイミングを計算する。


全てを、前世の経験に基づいて行った。


だが、結果は同じだった。


カオスナイトの大剣が、ユイの回避を読んでいた。横に跳んだユイを追うように、剣が軌道を変えた。


避けきれない。


咄嗟に短剣を盾にした。金属音が響き、ユイの体が吹き飛ばされた。壁に叩きつけられ、息が詰まる。


「がっ……!」


視界が揺れた。体中が痛い。だが、致命傷ではない。まだ動ける。


立ち上がろうとした瞬間、カオスナイトが目の前にいた。


大剣が、振り下ろされる。


ユイは横に転がった。大剣が地面を砕く。破片が顔に当たる。


起き上がる。短剣を構える。だが、もう遅かった。


カオスナイトの剣が、ユイの頬を掠めた。


熱い。


頬に、一筋の傷が走った。血が流れ、顎を伝って落ちる。


浅い傷だ。だが、それは偶然ではなかった。


カオスナイトは、殺そうと思えば殺せた。なのに、頬を掠めるだけに留めた。


遊んでいる。


ユイを、弄んでいる。


その事実が、ユイの心を抉った。

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