第181話 第1段階
カオスナイトが動いた。
剣を振り上げたわけではない。突進してきたわけでもない。ただ、片手を持ち上げただけだった。
それだけで、世界が変わった。
闇が爆発的に広がった。カオスナイトを中心に、黒い波動が放射状に拡散していく。壁を、床を、天井を、全てを飲み込みながら。
ダークドメイン。闇の領域。
ユイは咄嗟に目を閉じた。だが、意味はなかった。目を開けても、閉じても、何も見えない。完全な闘が、視界を奪っていた。
「くっ……!」
誰かが呻いた。カイルの声だ。すぐ近くにいるはずなのに、姿が見えない。
「全員、声を出せ! 位置を確認しろ!」
ユイが叫んだ。
「ここです!」
カイルの声。右斜め前。
「いますわ!」
リリアの声。左後方。
「……いる」
セイラの声。右後方。
「私もいます!」
セリスの声。後方。
ハンス、エルザ、アイリスも次々と声を上げた。クロウフォールは全員無事だ。
「ブレイズウォールは!」
「俺はここだ!」
レオンの声が響いた。前方、少し離れた位置。
「ザークス! フィン! グレン!」
「います、レオン様!」
「俺も!」
「ああ」
ブレイズウォールも全員いる。だが、位置がばらばらだ。闇の領域が展開された瞬間、陣形が崩れた。
ユイは周囲を見回した。だが、何も見えない。手を伸ばせば、自分の指先すら見えない。完全な暗黒。光が一切存在しない空間。
「リリア! 光魔法を!」
「やってみます!」
リリアの声がした。数秒後、後方で光が灯った。白い輝きが、闇を押し返そうとする。
だが、すぐに消えた。
「効かない……!」
リリアの声が震えていた。
「光が、吸収される……!」
ユイは歯を食いしばった。前世でも同じだった。ダークドメインの中では、通常の光魔法は効果が薄い。だが、今回はそれ以上だ。光が一瞬で飲み込まれている。以前より、闇が濃い。
半径20メートル。それがダークドメインの範囲だ。前世の記憶では、そうだった。だが、今回はどうか。封印で力を蓄えたカオスナイトは、より広い領域を展開しているかもしれない。
「動くな! その場に留まれ!」
ユイが命じた。
「闇の中で動き回れば、同士討ちになる!」
「だが、このままでは!」
レオンが叫んだ。
「奴はどこにいる!」
分からない。ユイにも、カオスナイトの位置が掴めなかった。闇の中では、気配を探ることも難しい。視覚だけでなく、他の感覚も鈍っている。
足音が聞こえた。重い、地面を踏みしめる音。だが、どこから聞こえているのか分からない。前からか、後ろからか、それとも横からか。闇が音を歪めている。
「来る……」
アイリスが囁いた。彼女の感覚は鋭い。だが、それでも方向を特定できていない。
「どこから……」
その瞬間、空気が動いた。
ユイは反射的に横に跳んだ。直後、自分がいた場所を何かが通過した。風圧だけで、体が押し流されそうになる。
「危ない!」
カイルの声。彼もまた、何かを感じ取って回避したようだ。
「散開しろ! 固まるな!」
ユイが叫んだ。
だが、散開すれば仲間の位置が分からなくなる。かといって、固まっていれば一網打尽にされる。どちらを選んでも、不利だった。
「まずい……」
ユイは呟いた。
これが、カオスナイトの第1段階。ダークドメインによる視界封鎖。この中で、分身を出され、本体に翻弄される。それが、前世で経験した戦い方だった。
だが、前世では一人だった。自分の判断だけで動けた。今は違う。11人の仲間がいる。全員を守りながら戦わなければならない。
闇の中で、複数の気配が動いた。
一つではない。二つでもない。三つ、四つ、それ以上。いくつもの気配が、バラバラの方向から近づいてくる。
「何だ、これは……」
レオンの声が響いた。
「囲まれている……!」
ザークスが叫んだ。
分身だ。シャドウクローン。カオスナイトが生み出す、闇の複製体。前世では最大5体だった。だが、今回は何体いる。
数えられない。闇の中では、気配だけが頼りだ。その気配が、四方八方から迫ってくる。
「全員、背中を合わせろ!」
ユイが命じた。
「円陣を組め! 外側を向いて防御態勢!」
声を頼りに、仲間たちが集まってくる。だが、暗闇の中での移動は困難だった。ぶつかり合い、よろめき、それでも何とか円陣を組もうとする。
気配が、さらに近づいた。
「来るぞ!」
カイルが叫んだ。
闇の中で、複数の気配が動いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、
ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。




