第168話 3位と最下位
依頼の受付を済ませ、ユイたちがギルドを出ると、まだブレイズウォールの姿があった。
ギルド前の広場。レオンが腕を組んで立ち、ザークスが何か報告している。フィンとグレンは少し離れた場所で待機していた。
「……まだいたのか」
アイリスが小声で呟く。
「先に出るって言ってたのに」
「装備の最終確認でしょう。長期の調査依頼ですもの」
リリアが冷静に分析した。
ユイは足を止めなかった。ブレイズウォールの横を通り過ぎようとする。
「最下位」
レオンの声が飛んできた。
ユイは立ち止まり、振り返る。
「また会ったな」
レオンが近づいてくる。金色の瞳が、真っ直ぐにユイを見据えていた。
「さっきの続きだ。お前たち、なぜこの依頼を選んだ」
「……答える義務はない」
「義務の話はしていない」
レオンの声が低くなる。
「俺が聞いているんだ」
威圧。3位のクラウンとしての圧力が、空気を重くする。
カイルが一歩前に出た。
「ユイさんが答えたくないと言っているんです。それ以上は——Loss」
「黙れ、盾役」
レオンの一言で、カイルの言葉が遮られた。
「お前に聞いていない」
「……っ」
カイルが歯を食いしばる。ユイが片手を上げ、彼を制した。
「目的が違うなら、別々に動けばいい」
ユイは静かに言った。
「同じ依頼でも、求めるものが違う。そうだろう」
「目的?」
レオンが眉を上げた。
「お前らの目的は何だ」
「……」
ユイは答えなかった。
沈黙が流れる。レオンの目が細くなった。
「答えない、か。二度目だな」
「答える必要がない」
「必要がない?」
レオンが一歩近づいた。
「最下位のくせに、随分と偉そうだな」
その言葉に、セイラが動いた。
一歩前に出て、レオンとユイの間に立つ。氷青色の瞳が、冷たくレオンを見上げた。
「……邪魔だ」
セイラの声は低く、静かだった。だが、その一言には明確な拒絶が込められている。
レオンの目が、わずかに見開かれた。
「お前……ドラコニアか」
「……氷竜の血だ」
「炎竜の俺と、氷竜か。面白い」
レオンの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。だが、それは好戦的なものではなかった。
「いい目をしている。最下位にしておくには惜しいな」
「……興味ない」
セイラは短く返した。
その時、ザークスが進み出た。
「レオン様」
「何だ」
「時間の無駄です。我々の目的は異常の排除。彼らと言い争っている場合ではありません」
ザークスの声は丁寧だが、硬い。レオンの暴走を止める役割を、彼は的確に果たしていた。
レオンは舌打ちした。
「……分かっている」
彼はユイから視線を外し、踵を返した。
「いいだろう。先に行く」
数歩歩いて、肩越しに振り返る。
「だが、邪魔はするなよ。足手まといは置いていく」
「……了解した」
ユイは短く応じた。
レオンは鼻を鳴らし、仲間たちに合図を送った。
「行くぞ」
ブレイズウォールが動き出す。4人の姿が、北門の方角へ消えていった。
広場に残されたクロウフォールの8人。
「……感じ悪いですね」
セリスが眉をひそめた。
「3位ってだけで、あんな態度……」
「実力があるのは事実ですわ」
リリアが静かに言った。
「ブレイズウォールは討伐実績で評価されているクラウンです。レオン・ドラグナー個人の戦闘力は、王都でもトップクラスと言われています」
「だからって……」
「セリス」
ユイが名を呼んだ。
「気にするな。あれが彼のやり方だ」
「でも——」
「私たちは私たちのやり方で動く。それでいい」
セリスは口をつぐんだ。ユイの言葉には、反論を許さない静かな力があった。
「……ユイ」
エルザが近づいてきた。
「同じ場所に向かっている。鉢合わせは避けられない」
「ああ」
「どうする」
「……向こうの目的は異常の排除だ」
ユイは北門の方角を見つめた。
「私たちの目的は、異常の原因を突き止めること。重なる部分はあるが、同じではない」
「棲み分けができる、と?」
「できなければ、その時に考える」
エルザは小さく頷いた。
「……了解」
ユイは仲間たちを見回した。
「出発する。準備はいいか」
「はい!」
カイルが応じる。他の全員も頷いた。
ユイは歩き出した。
同じ場所。同じ依頼。だが、求めるものは違う。
レオンは力で解決しようとする。異常があれば排除する。それが彼のやり方だ。
だが、ユイは知っている。
北の森には、力だけでは解決できない何かがある。
以前、撤退を選んだ理由。あの時感じた異様な気配。
答えは、あの森の奥にある。
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