第166話 報告そして次へ
拠点に戻ると、全員が食堂に集まった。
窓から夕日が差し込んでいる。8人がテーブルを囲む。誰も口を開かない。今日起きたことを、それぞれが整理している。
ユイが最初に口を開いた。
「今日、ランキングを確認した」
全員の視線が集まる。
「クロウフォールは最下位だ」
カイルが頷いた。
「知ってます。掲示板で見ました」
「ブレイズウォールのリーダー、レオン・ドラグナーに絡まれた。3位のクラウンだ」
「あの人、結構怖かったですね」
「怖くはない。ただ、私たちを見ていた」
ユイはテーブルの上に手を置いた。
「ラスティのゼックも来た。4位だ。あいつも、私たちを見ていた」
リリアが静かに言った。
「上位のクラウンが、最下位の私たちに興味を持っている。それは、良いことなのでしょうか」
「分からない。だが、見られているのは事実だ」
ユイは全員を見渡した。
「ここで、方針を確認したい」
セイラが視線を向ける。エルザが腕を組む。ハンスが黙って待つ。
「クロウフォールの目的は、ランキングを上げることじゃない」
ユイは言葉を選びながら続けた。
「私たちの目的は、幻モンスターの真実に辿り着くこと。15本の柱の謎を解くこと。空白の地点で何が起きているのかを知ること」
カイルが頷く。
「俺もそう思います」
「ランキングは、活動の結果として動くものだ。上位を目指して動くのではなく、謎を追った結果として順位が変わる。それでいい」
リリアが穏やかに言った。
「私はユイの判断に従いますわ。最初からそう決めています」
「リリア」
「信じていますから」
アイリスが手を挙げた。
「私も賛成。ランキングとか、正直どうでもいいし。面白い方がいい」
セリスも頷く。
「私も、ユイさんについていきます」
エルザが短く言った。
「……同じだ」
ハンスが低い声で続ける。
「……謎を追う。それが目的なら、異論はない」
セイラは何も言わなかった。ただ、静かにユイを見ていた。
その視線に、否定はない。
ユイは小さく息を吐いた。
「もう一つ」
全員が待つ。
「私たちは最下位だ。誰もが見て、弱いと判断する」
「それは……」
カイルが言いかけた。ユイが続ける。
「だから、見える」
「見える?」
「上位のクラウンは常に注目されている。アイアンクロスが動けば、ギルドも国家も反応する。ブレイズウォールが依頼を受ければ、他のクラウンも警戒する」
ユイはテーブルを見つめた。
「だが、最下位は違う。誰も警戒しない。誰も注目しない。だから、自由に動ける」
リリアが目を細めた。
「空白の地点への遠征も、誰にも邪魔されなかった」
「そうだ。最下位だったから、誰も気にしなかった」
セイラが低く呟いた。
「……弱いと思われていることが、武器になる」
「その通りだ」
ユイは立ち上がった。
「私たちは最下位だ。だから、見える。上から見下ろされているからこそ、上が見えない場所が見える」
全員が黙って聞いていた。
「次の目標は、白紙の謎を解くこと。15本の柱の意味を知ること。そして、消えた冒険者たちがどこへ行ったのかを突き止めること」
カイルが拳を握った。
「俺は守ります。ユイさんが謎を追う間、俺が全員を守ります」
「頼りにしている」
ユイは小さく笑った。
「行くぞ。最下位のまま、誰も見ていない場所へ」
全員が頷いた。
夕日が窓から差し込み、8人の影がテーブルに落ちていた。
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同じ頃。
王都の裏路地。
ザインは壁に背を預け、空を見上げていた。
報告書は提出した。虚偽の報告書だ。空白の地点への到達は、記載していない。
上司は気づいていない。信頼しているからだ。
だが、ザインの心は決まっていた。
ユイ・セイラス。
18歳の冒険者。だが、動きが違う。判断が速い。そして今日、3位のレオン・ドラグナーと睨み合い、一歩も引かなかった。
あの少女は、何かの鍵だ。
封印。幻モンスター。15本の柱。すべてが繋がっている。そして、ユイ・セイラスはその中心にいる。
組織には報告しない。上司にも言わない。
独自に追う。
ザインは壁から離れた。
ミラとドレイクは、東の山脈の封印を調査している。次の段階の準備だ。
だが、ザインの興味は別の場所にある。
ユイ・セイラス。あの少女が何者なのか。何を知っているのか。なぜ、あの目をしているのか。
理由は後から見つければいい。今は、動くことが先だ。
ザインは歩き出した。
夕闘の中、その影が路地の奥へ消えていく。
第20章 完
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