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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第20章 最下位の名前

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第165話 3位が笑う

レオンたちが去った後も、クロウフォールの8人は掲示板の前に立っていた。


周囲の冒険者たちの視線を感じる。最下位のクラウンが3位のリーダーに絡まれた。その場面を見ていた者は多い。


「ユイさん、大丈夫でしたか」


カイルが心配そうに言う。


「問題ない」


「でも、あの人、結構睨んでましたよね」


「睨まれただけだ」


「えっ、すごいじゃん」


背後から、聞き覚えのある軽い声がした。


全員が振り返った。


ぼさぼさの茶髪に、無精髭。くたびれた革鎧。いつも少し笑っているような顔。


ゼック・アッシュ。ラスティの古参メンバー。氷洞で会った、道化のような男だ。


「レオンに睨まれて震えなかったの、ちょっと怖いんだけど」


「ゼックか」


「おっ、覚えててくれた。嬉しいなあ。あ、俺には関係ない話だけど」


ゼックは掲示板を見上げた。


「相変わらず最下位か。でも態度は最下位じゃなかったね。なんでお前らそんなに堂々としてんの?」


「氷洞の時と同じ質問だな」


「あー、そうだっけ。俺、同じこと何回も聞くタイプなんだよね」


ゼックはクロウフォールの面々を見回した。


「お、全員揃ってるじゃん。カイルくん、筋肉減ってない? 大丈夫?」


「減ってないです」


「よかったよかった。筋肉好き同士、仲良くしようね」


カイルが困惑した顔をする。


ゼックの視線がセイラに向いた。


「あ、セイラちゃん。久しぶり。元気だった? 氷洞の時、話しかけても全然反応してくれなかったよね。今日はどう? 少しくらい話してくれる?」


セイラは完全に無視した。視線すら向けない。


「……えっ、今日もダメ? マジで? 一言くらいいいじゃん」


沈黙。


「あー、はいはい。分かった分かった。また次ね」


ゼックは一人でフォローして、肩をすくめた。


アイリスが小さく笑った。


「相変わらずだね、ゼックさん」


「おっ、アイリスちゃんだけは拾ってくれる。優しい。好き」


「それはどうも」


ゼックはユイに向き直った。


「で、さっきの話。レオンだよ? 3位のリーダー。ブレイズウォールの頭。戦闘力だけなら王都でもトップクラス」


「知っている」


「知ってて睨み返したの? えっ、やっぱ怖いわ」


ゼックは両手を上げた。


「俺たちラスティは4位。お前らは最下位。順位だけ見れば、俺が上。でもさ、レオンはお前を覚えた。名前まで」


「そうらしいな」


「3位のリーダーが、最下位のリーダーの名前を覚えた。えっ、それって結構すごくない?」


リリアが静かに言った。


「レオン・ドラグナーは、実力主義の人だと聞いていますわ。弱い相手には興味を示さない」


「そうそう、リリアちゃん正解。レオンは単純な奴だよ。強い奴には敬意を払う。弱い奴は無視する。でも、ユイは弱いのに無視されなかった」


「弱くない」


ユイが短く言った。


「あ、そう?」


ゼックの目が、一瞬だけ鋭くなった。


氷洞でも見た目だ。笑顔のまま、目だけが違う。場の空気を全部読んでいる目。道化を演じながら、何もかも把握している目。


すぐに、いつもの緩い表情に戻った。


「まあいいや。俺には関係ない話だ」


「ノアは」


「ん? ノア? いるよ、ギルドのどっか。多分遠くから見てる。あいつ、人混み苦手だから」


ユイは周囲を見回した。確かに、ギルドの隅の方に黒い短髪の細身の人影が立っている。灰色の瞳がこちらを見ていた。


ノア・クレイン。ラスティの現役エース。氷洞でもユイの動きだけを無意識に目で追っていた。


「で、空白の地点、行ってきたんでしょ」


ゼックが言った。


「どこでそれを知った」


「だから何回も言ってるじゃん。情報網。王都で起きたことは、大体ラスティの耳に入る」


「15本の柱があったってことも?」


「まあね。ナオミさんが興味持ってたよ。『やはりあの場所か』って」


リリアの表情がわずかに動いた。師匠の名前が出たからだ。


「一つ聞く」


ユイが言った。


「なに」


「レオンは、私をどう見ている」


ゼックは少し考えた。


「敵じゃないね。でも、無視もできない。多分、観察対象ってところかな」


「観察対象」


「そう。レオンは単純だけど、馬鹿じゃない。お前の目が普通じゃないって、気づいてる」


「普通じゃない」


「弱者の目じゃないって、さっき言ってたでしょ。あれ、本音だよ」


ゼックは背を向けた。


「じゃあね、クロウフォールの皆さん。また会うよ、多分」


「待て」


「なに」


「お前も、私を観察しているのか」


ゼックは振り返らずに笑った。


「俺? 俺はただの暇人だよ。半引退の元Aランク。今は錆びたまま動き続けてるだけ」


「氷洞の時も、私の経歴を言い当てた時、笑みが固まっていたな」


ゼックの足が止まった。


「……鋭いって、前も言ったでしょ」


「お前は道化を演じている。だが、全部把握している」


「やめてよ、そういうの。怖いから」


ゼックは振り返った。


いつもの笑顔。だが、目だけが違う。


「あなたが一番怖いよ、ユイ・セイラス。なんでそんなに全部見えてんの? 疲れない?」


その言葉を残して、ゼックは人混みに消えていった。


クロウフォールの8人が残された。


カイルが呟いた。


「あの人、いつも掴みどころがないですよね」


「……道化だ」


セイラが初めて口を開いた。


「道化を演じながら、全部見ている」


ユイは頷いた。


3位のレオン。4位のゼック。どちらも、クロウフォールを見ている。


「帰るぞ」


ユイが言った。


ギルドを出る。空は晴れている。


レオンの言葉が頭に残っていた。


「また会おう。次は、何をしているか見てみたい」


去り際に、レオンはそう言った。嘲笑ではなかった。純粋な興味だった。


最下位のクラウンが、上位クラウンのリーダーたちの興味を引いた。


それが何を意味するのか、まだ分からない。


だが、悪いことではない。


8人は拠点へ向かって歩き始めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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