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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第20章 最下位の名前

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第161話 報告の届け先

シャドウ・ヴェールの拠点。


王都ティリアスの裏路地に隠された、石造りの地下施設。薄暗い通路を魔法の明かりだけが照らしている。


ザインは記録室に入った。


壁際に並ぶ棚には、厚いファイルが詰め込まれている。冒険者の記録、依頼の履歴、幻モンスターの目撃情報。シャドウ・ヴェールが収集した情報が、この部屋に集約されていた。


机の上に、新しい報告書が置かれている。


現場の観察者からの報告だ。ザインは報告書を手に取った。


「クロウフォール。空白の地点に到達。8人全員が生還。滞在時間、約2時間」


ザインの目が止まった。


空白の地点。15本の柱が立つ場所。


あの場所に到達した冒険者は、これまでにも何人かいた。だが、全員が「消えた」ことになっている。


シャドウ・ヴェールが確保した。


組織にとって不都合な目撃者は、排除するか、利用するか。あの場所に辿り着いた者たちは、今は組織の工作員として動いている。記憶を書き換えられ、別人として。


クロウフォールは8人全員が生還した。


確保されずに。


ザインは報告書を置き、棚へ向かった。


「クロウフォール」と書かれたファイルを引き出す。結成から日が浅いクラウンだ。


リーダーの名前。ユイ・セイラス。18歳。女性。


ザインの指が止まった。


上司から命じられた監視対象だ。カオスナイト戦でユイたちは撤退した。だが、全員が無事だった。


あの戦いで、ザインは上司派の精鋭10人を殺した。意図的に連携を崩し、孤立させ、カオスナイトに殺させた。組織の主力を削るために。


だが、ユイたちは8人全員が生きて逃げ切った。


「なぜユイ・セイラスたち8人は生還できたのか」


上司の問いが、頭の中で反響する。


ザインは表向き忠実な部下として答えた。「あの冒険者たちは、幻モンスターについて、我々より多くを知っている可能性があります」と。


上司は「引き続き監視を続けろ」と命じた。裏切りには気づいていない。


ザインはその命令に従い、観察を続けてきた。


だが、今日の報告は違う。


空白の地点。15本の柱。


あの場所は、シャドウ・ヴェールにとって重要な監視対象だ。定期的に観察者を送り、管理している場所。幻モンスターの名前が刻まれた柱。


クロウフォールがそこに到達した。そして、全員が生きて戻ってきた。


なぜ確保されなかった。


誰かが見逃したのか。それとも、手を出せなかったのか。


ザインは椅子に座り、報告書を読み返した。


「滞在時間、約2時間。何かを持ち帰った形跡あり」


何を持ち帰った。


ザインの胸の奥で、何かが警告を発していた。


理由は分からない。論理ではない。ただの本能だ。


この情報は、上へ上げてはいけない。


空白の地点への到達。それを上司に報告すれば、上司は動く。監視を強化するか、接触を図るか、あるいは——排除を命じるか。


どの選択肢も、今は望ましくない。


なぜそう思うのか、自分でも分からなかった。上司への報告は義務だ。ザインは裏切り派のリーダーだが、表向きは忠実な部下を演じている。命令には従ってきた。


だが、この情報だけは——


ユイ・セイラス。


その名前が、頭の中で反響していた。


18歳。だが、動き方が違う。判断が速い。まるで何十年も戦場を歩いてきた者のようだ。


年齢と動きが、一致しない。


そして今日、空白の地点に到達した。15本の柱を見た。幻モンスターの名前が刻まれた場所を。


ザインは報告書を閉じた。


今日の報告には、この件を含めない。


「空白の地点への到達」は削除する。


理由は後から考える。今は、この名前を隠す。ユイ・セイラスという名を、この件から切り離す。


机の引き出しを開け、報告書をしまった。鍵をかける。


立ち上がり、記録室を出る。廊下は静かだった。


上司への報告書は、別に作成する。クロウフォールの動向について、当たり障りのない内容で。空白の地点への到達は、記載しない。


虚偽報告。


組織への反逆の第一歩。


だが、ザインは迷わなかった。


ユイ・セイラス。


あの名前に、何かがある。まだ分からない。だが、分からないまま動く。


これは組織のためではない。


自分自身の、本能だ。


ザインは一人、記録室から出た。目は鋭い。何かを追う狩人のような瞳。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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