第155話 開けた場所
樹木を抜けると、空が広がった。
石の広場だった。
雑草は生えているが、形は保たれている。円形に近い。直径30メートルほど。周囲を木立が囲み、ここだけが切り取られたように開けている。
地面は石畳。隙間を苔が埋めているが、石そのものは崩れていない。人の手が入った跡がある。最近ではない。だが、完全に放置もされていない。
「落ち葉が端に寄せられている」
アイリスが広場の縁を指す。
確かに一箇所に集められている。風で溜まった形ではない。掃いた跡だ。
「直近で誰かがいた」
エルザが低く言う。
「ただし今は無人」
全員が広場を見渡す。人影はない。動くものもない。風だけが抜ける。鳥の声もない。
「……静かすぎる」
セイラが呟く。
ユイは中央へ視線を向けた。
柱が立っている。
1本ではない。複数。等間隔に並ぶ石柱。高さは2メートル弱。灰色。装飾はない。
「数えるか」
カイルが一歩出ようとする。
「待て」
ユイが制する。
「まず外縁を確認する。アイリス、エルザ、周囲を見ろ。ハンス、カイル、入口を押さえろ。リリア、セリス、セイラ、ここで待機」
「了解」
「……承知」
アイリスとエルザが散る。ハンスとカイルが木立の入口へ。残り4人が中央付近に留まる。
ユイは動かず、柱の配置を目で追う。
15本。
3列、5本ずつ。規則的だ。意図がある。
「15本ありますね」
セリスが小声で言う。
「等間隔ですわ。計算されています」
リリアが続ける。
セイラは無言で柱を見ている。
やがてアイリスとエルザが戻る。
「外縁に異常なし。ただ踏み跡が一点に集中してる場所がある。定期的に誰かが来てる」
「……管理されている」
エルザが言う。
「落ち葉、踏み跡。放置ではない」
ユイは頷いた。
誰かがこの場所を維持している。
「中央へ行く」
石畳を踏む音が響く。自分たちの足音だけだ。
柱に近づく。
表面に刻まれた文字が見える。古い。だが風化していない。読めない。
「文字がある」
カイルが手を伸ばしかけ、止める。
「触っていいですか」
「慎重にだ」
カイルが指先で石に触れる。
「冷たい。でも普通の石みたいです」
リリアが別の柱を観察する。
「古代語系に近いですが、私の知る体系とは違います。エルフの文字でもありません」
「読めないのか」
「読めません。形は似ていますが、配列が異なります」
エルザが指先でなぞる。何も起きない。
ハンスが柱の太さを測る。
「……古い。だが削れていない」
「どういう意味だ」
「数百年は経っている石だ。だが角が丸くなっていない。風雨の痕跡が弱い」
セリスが水晶杖を向ける。
「感知します」
目を閉じる。
「何かあります。でも触れられない。そこにあるのに、掴めない」
「封印か」
「分かりません。ただ、普通の石ではありません」
15本の石柱。
誰も読めない文字。
規則正しい配置。
カイルが全員を見る。
「カオスナイトって、幻モンスターだったよな」
空気が変わる。
「ここに柱が15本ある。そういうことじゃないか」
誰も答えない。
ユイは柱を見つめたまま、動かなかった。
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