↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第19章 空白の先で、何かが待っていた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
152/191

第152話 集落に入る

2日目の昼を過ぎた頃、道の先に建物が見え始めた。


木造の家が数軒、丘の斜面に沿って並んでいる。煙突から煙が上がる家もある。畑が広がり、柵で囲われた小さな牧草地も見える。人の営みがある村だ。


「あれがベルン村か」


アイリスが地図を確認しながら言う。事前に得ていた情報と一致している。人口40人ほどの農村。王都から地図の空白方向へ向かう途中にある、最後の集落。


「宿があるなら借りたい。今日は野営を避ける」


ユイが言い、全員が頷いた。


村の入口に近づくと、道端で鍬を持った男が立ち止まった。こちらを見ている。視線に警戒はあるが、強くはない。どこか慣れた目だ。


「通りますか」


カイルが声をかける。


「ああ。宿はまっすぐ行った先だ。主人に言えば部屋は貸してくれる」


「ありがとうございます」


カイルが礼を言う。男は8人の防具を一度見渡し、何も言わず畑へ戻った。


村の中を歩く。道は石畳ではなく、踏み固められた土。家々の間を抜けると、井戸のある小さな広場に出る。水を汲む女、走る子供。生活の匂いがある。


だが、反応が薄い。


見知らぬ冒険者に向ける警戒も、歓迎も、どちらも弱い。視線は向けるが、すぐ逸らす。感情の起伏が浅い。


「……慣れすぎてるな」


エルザが低く言った。


「最近、誰か来てるな」


「複数だ。一組じゃない」


アイリスが周囲を見ながら答える。


宿は広場の奥にあった。木造2階建て。看板には鳥の絵。扉を押すと、酒と煮物の匂いが流れ出る。


「いらっしゃい」


カウンターの向こうに中年の男。宿の主人だろう。太った体格、禿げ上がった頭、分厚い手。8人を順に見渡す。


「冒険者か。部屋はある。2人部屋が3つ、4人部屋が1つ。どうする」


「4人部屋を2つ借りられるか」


「4人部屋は1つしかねえ。2人部屋と合わせて使え」


「分かった。それで頼む」


ユイが答え、宿代を払う。主人は金を受け取り、鍵を渡した。


「夕食は1階だ。日が落ちたら来い」


愛想はない。ただ淡々としている。


部屋に荷物を置き、装備を軽くしてから1階へ戻る。日が傾き始めている。


夕食の席には、村人が数人いた。農夫らしい男たち。酒を飲み、低い声で話している。クロウフォールが席につくが、視線はほとんど向かない。


アイリスが席を立つ。


「すみません、少し聞いてもいいですか」


声をかけると、1人の農夫が顔を上げた。40代ほど。日焼けした肌に深い皺。


「何だ」


「最近、この方向へ向かった人を見ましたか」


アイリスが地図の空白方向を指で示す。


「見た。8人くらいだったか」


「いつ頃ですか」


「先月の終わりか、今月の頭か。その辺りだ」


「戻ってきましたか」


「戻ってきていない」


感情はない。ただ事実を並べる声。


「他にもいましたか。同じ方向へ向かった人」


「何組か来てた。みんな同じ方向を見てた」


そのとき、宿の主人が厨房から出てきた。


「おい」


低い声。農夫が口を閉じる。主人がアイリスを見る。


「夕食は出す。だが、余計な話はここではしない方がいい」


それだけ言って、料理を運び始めた。農夫たちも黙る。空気が切り替わる。


アイリスが席に戻る。


「聞けたか」


ユイが問う。


「聞けた。でも、打ち切られた」


「何組か来てた。みんな同じ方向を見てた」


セリスが小声で言う。


「戻ってきた奴がいない」


エルザが短く続ける。


野菜の煮込みと固いパン。質素だが温かい。全員が黙って食べる。周囲の村人もこちらを見ない。


食事を終え、部屋へ戻る。


「明日、出発前にもう少し聞く」


アイリスが言う。


「夜なら、口が軽くなる奴もいるかもしれない」


「頼む」


ユイが答える。アイリスは再び1階へ下りていった。


部屋に残った7人が静かに装備を確認する。


「……感知に何も引っかからない。だが、空気が重い」


セイラが窓の外を見ながら言う。


「何かを避けていますわね。村人たちが」


リリアが続ける。


「知ってて言わないのか。知らないから言えないのか」


カイルが呟く。


「……どちらでも、先に進むしかない」


ハンスの低い声。


ユイは黙っていた。


この村の名。この空気。前世の記憶を探るが、引っかかるものはない。ここへ来た記憶はない。あるいは、その前で何かが途切れているのか。


分からない。


答えは、空白の先にある。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、

ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。