↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第19章 空白の先で、何かが待っていた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
151/190

第151話 8人で歩く、空白の道

朝靄の中を、8人が歩いている。


王都ティリアスの城門を出て半日が経った。街道は平原を抜け、緩やかな丘陵地帯へと入っている。草は腰の高さまで伸び、風が渡るたびに波のようにうねる。空は薄曇り。陽光は雲の向こうに隠れ、影は輪郭を失って地面に落ちていた。


「重心、変えて正解でした」


カイルが言う。独り言ではない。後ろを歩くハンスに向けている。


「……そうか」


「はい。以前の鎧だと、こういう傾斜で踏ん張る癖があったんです。でも今の重さだと、踏ん張るより流した方がいい」


「……同じだ」


短い応答。慣らしの10日間で、2人とも移動時の感覚を調整していた。会話は少ないが、歩幅と間合いが噛み合っている。


ユイは列の中央を歩きながら、前後を見渡した。


全員の防具に、同じ紋章が刻まれている。降下するカラス。クロウフォール。統一防具に同じ印を背負って動くのは、今日が初めてだ。


「ユイさん」


アイリスが横に並ぶ。声は軽いが、視線は前方に固定されている。


「踏み跡がある。人のもの」


「いつ頃だ」


「2週間以内。雨で一度消えかけて、その上からまた踏まれてる」


「方向は」


「私たちと同じ」


ユイは何も言わず、前を向いた。


第149話でアイリスが持ち帰った情報。空白の先へ向かった複数の冒険者。誰も戻っていない。踏み跡は、その事実を裏付けている。


言葉にはしない。ただ胸の奥に沈める。


丘を越えると、木立が見えてきた。深森ほど密ではないが、視界は確実に狭まる。道は続いている。踏み固められた痕跡がある。


「休憩を取る」


ユイの声で全員が足を止めた。


岩に腰を下ろす。セリスが水筒を回す。カイルが受け取り、一口飲んで次へ渡す。エルザは受け取らず、周囲を見回している。視線だけが静かに動く。


「エルザ」


「……何もいない。獣の気配もない」


「逃げてるのか」


「分からん。だが、静かすぎる」


リリアが木立を見つめたまま言う。


「魔力の流れは普通ですわ。異常は感じません。ただ……」


「ただ」


「獣がいないのに、植生が荒れていないのは妙ですわね」


セイラが白い息を吐く。


「……空気が重い。感知には何も引っかからない。だが、何かがある」


ハンスが低く言った。


「……進むか」


全員の視線がユイに向く。


ユイは立ち上がった。


「進む」


短く告げ、歩き出す。8人の足音が再び揃う。


木立を抜けると、道は二股に分かれていた。右は山側へ上り、左は谷へ下る。踏み跡は左へ続いている。


「こっちだ」


エルザが言う。ユイが頷いた。


谷に入ると空気が湿る。足元の草が増え、石には苔が張りつき始める。視界はさらに狭まり、先が見通せない。


「隊形を締めろ」


ユイの声で、全員が間隔を詰めた。


前を偵察するアイリスが、小声で言う。


「踏み跡、合流してる。3組分くらい。時期が違う」


「合流した形跡か」


「違う。同じ場所を、別々の時期に踏んでる。最初に来た奴、次に来た奴、その次。順番に同じ道を歩いてる」


エルザが補足する。


「……3組以上。時期は異なる。戻った痕跡はない」


誰も言葉を返さなかった。


ユイは前を見る。


谷の先に、うっすらと開けた場所が見える。まだ距離がある。日が傾き始めている。


「今日はここで野営する。明日、先に進む」


全員が頷いた。


野営の準備が始まる。セリスとリリアが火を起こし、カイルとハンスが周囲を確認する。アイリスとエルザが索敵。セイラは杖を傍らに置き、空気の流れを読む。


ユイは地図を広げた。


空白の先。この方向に何があるのか、地図には何も描かれていない。だが、人は確かにここを通っている。


カイルが近づいてくる。


「ユイさん」


「何だ」


「踏み跡のこと、気になりますか」


「ああ」


「先に行った人たち……何をしに行ったんでしょうね」


ユイは地図から目を上げた。


「分からない」


「分からない、ですか」


「だから、確かめに行く」


カイルは少し黙った。


「……そうですね」


それだけ言って、火の方へ戻っていく。


ユイは地図を折りたたんだ。


踏み跡の方向は、自分たちの進路と完全に一致している。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、

ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。