第148話 装備受け取りと、10日の慣らし
完成の連絡を受けた朝、クロウフォールの8人は揃ってゴードンの工房を訪れた。
扉を開けた瞬間、空気が違うと分かる。
作業台の上に、8人分の装備が整然と並んでいた。前回と同じ配置。だが今度は未完成ではない。光を受けた素材が、それぞれ異なる反射を返している。重さと密度が、視線だけで伝わってくる。
ゴードンが無言で手招きした。
「一点ずつ確認する。嵌め座の説明をする」
全員が作業台を囲む。
まずユイの防具を取り上げ、胸部の一角を指で示した。縁取りされた小さな座。素材は本体と同一だが、境界線がわずかに浮いている。
「ここが嵌め座だ。芯素材を入れ、圧着と魔力接合で固定する。外すには専用工具が要る。入れるときは押し込めば固定される」
「どの素材を入れる」
「それはお前たちが決める。今日は空で渡す。最初の嵌め込みは俺がやる。2回目からは自分でやれ」
防具としての基本性能は空のままでも機能する。ただし属性耐性は発現しない。素材を入れて初めて意味を持つ。
カイルが銀鎧と大盾を持ち上げる。
「前より……通りますね」
「通るようにした」
鎧に3箇所、盾に2箇所。計5つの嵌め座。カイルは一つ一つ指で確かめた。重心は変わっているが、崩れてはいない。
リリアはローブを受け取る。嵌め座は1箇所。
「重さは変わりますか」
「素材次第だ」
頷き、袖口の縫製まで丁寧に確認する。
アイリスは投擲ナイフを手に取り、軽く回した。
「飛び方、変わりそう」
「前より切れる」
装束の嵌め座は2箇所。軽装に合わせ、小型に仕上げられている。
エルザは黒装束を広げ、縁をなぞった。
「縫い目と馴染ませてある。影潜みに支障は出ない」
わずかに、目が細くなる。
ハンスの超重装甲は床置きだ。
「4箇所。重量バランスは変えていない」
ハンスは無言で装甲に手を当て、重みを確かめた。
「……分かった」
セリスは新しい水晶杖を受け取る。中心部が透き通り、以前の亀裂はない。
「綺麗です」
「使えなければ意味はない」
握り直したセリスが小さく言う。
「落ち着きます」
「馴染むまで時間はかかる」
セイラは氷杖を受け取った。魔力結晶が新調され、重心がわずかに変わっている。
「出力を確認していいか」
「ここでは困る」
短い応酬の後、構えだけを確かめる。
最後にゴードンが全員を見渡す。
「全員の防具に刻印を入れた。確認しろ」
左肩、胸元、袖口。位置は異なるが、同じ紋章が刻まれている。
降下するカラス。
誰も声を上げなかった。ただ、それぞれが触れ、確かめた。
「以上だ」
ゴードンは奥へ戻る。
その日から10日間の慣らしが始まった。
カイルは重心の変化を利用し始めた。振り出しの遅さを溜めに変える。7日目、意図して重みを乗せられるようになる。
アイリスは500回投げた。400回までは違和感を口にしていたが、500を超えたとき言った。
「今の方が遠くに届く」
エルザは沈黙のまま続けた。8日目、影の出入りが滑らかに繋がる。
ハンスは立ち位置を再計算。カイルと2日間、距離をすり合わせた。
セリスは5日目に言った。
「水の流れが先に見える感じがします」
リリアは計算を修正し、10日目に淡々と告げる。
「問題ありませんわ」
セイラの出力は、10日目に以前の精度へ戻った。
「予定通りだ」
それ以上は言わない。
ユイは全員の変化を確認しながら、出発計画を組み替えた。3度問いを投げ、3度、想定と違う答えが返る。その違いを取り込み、形を修正する。
装備は馴染んだ。
出発まで、あと1日。
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