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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第18章 受け取ること、使うこと

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第147話 セイラが、一人で試していた

訓練場の扉が、わずかに開いていた。


夜明けにはまだ早い時間だ。回廊を歩いていたユイは、隙間から漏れる青白い光に気づき、足を止めた。炉の火ではない。魔力特有の揺らぎを帯びた光。波打つように明滅している。


静かに扉を押す。


中にいたのは、セイラだった。


訓練場の中央に立ち、トレーニング用の杖を前に構えている。額には汗が滲み、呼吸は浅い。いつからここにいたのか分からない。杖の先から霧のような白い魔力が生まれては消え、生まれては消える。


小さく。


少し大きく。


また小さく。


意図的に出力を揺らし、その都度、指先と腕、体幹に走る感触を確かめている。


ユイが近づいても、セイラは振り返らなかった。


「……トレーニング用では限界がある」


低い声。説明ではない。ただ、現状を置いただけだ。


「本杖が戻ったとき、制御の幅がどこまで変わるか。今から試しておきたい」


ユイは何も言わず、隣に立った。助言のためでも、止めるためでもない。ただ、そこに立つ。


訓練場の空気に、薄い霧が漂う。外から鳥の声が聞こえた。夜明け前の、まだ冷えた空気を震わせる小さな鳴き声。


しばらくして、セイラが杖を一度下ろす。


「……出力が跳ねる可能性がある。幅を広げておけば、暴発は防げる。今やれることは、今やる」


「前から制御は課題だったな」


「今より荒くなる。分かっている」


「どうするつもりだ」


「慣れる。他に方法はない」


言い切ったが、声の奥にわずかな硬さがあった。


再び杖を構える。


今度は、先ほどよりも少し強い出力。霧が広がり、空気が震える。壁に触れる直前で、出力を絞る。絞りすぎれば途切れ、広げすぎれば暴れる。その狭い幅を探している。


ユイは横目で見ていた。


昨日の食堂で、セイラはどこか遠い顔をしていた。その理由は、これだ。一人で先に進もうとしている。


やがて、セイラが杖を下ろす。今度は疲労ではなく、区切りをつけた動きだった。


「……ユイは、制御が噛み合わないと感じたことがあるか」


少し考える。


「ある。知っている動きと、体が出せる動きが一致しないときだ。どちらかが先走る」


セイラは黙る。


だが、杖を握る手の角度が変わった。力がわずかに抜ける。


「……それは、どうした」


「慣れた。時間はかかった」


「何日だ」


「覚えていない。ただ、ある日、違和感が消えていた」


特別な方法はない。積み重ねだけだ。


セイラは再び杖を構える。


今度は最小出力から始め、ゆっくりと上げていく。さきほどまでの焦りがない。暴れない範囲を探すのではなく、安定する中心を探している動きだ。


霧が静かに広がり、均一に保たれる。


ユイはそれを確認し、踵を返した。


扉へ向かう。


背中に向けて言う。


「アイリスもセリスも、同じ問題を抱えている。1人で背負う話ではない」


わずかな沈黙。


「……分かっている」


振り返らないままの返事だった。


扉に手をかける。


背後から、小さな声。


「ありがとう」


かすかだが、確かに聞こえた。


ユイは振り返らない。


扉を閉め、回廊へ出る。冷たい空気が頬に触れる。東の空が、わずかに色を変え始めている。石畳に足音が響く。


セイラは、礼を口にする人間ではない。


だからこそ、あの一言は重い。


特別なことはしていない。ただ横に立っただけだ。


それでも、焦りの中心が少しだけ定まった。そんな感触があった。


変化はまだ先だ。


だが、今日の霧は昨日よりも安定していた。


それだけで十分だと、ユイは思った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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