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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第18章 受け取ること、使うこと

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第146話 合わない部分を、口にする

装備が完成するまでの10日間。その最初の朝だった。


訓練場には、自然と全員が集まっていた。誰かが呼んだわけではない。ただ、動かないという選択肢がなかっただけだ。


武器も防具もゴードンの工房に預けてある。手元にあるのは、クロウフォールの資産として揃えられた下位互換のトレーニング用装備。本物とはまるで違う。それでも、何もしないよりはいい。感覚を鈍らせないために、今できることをやる。それだけだった。


カイルはトレーニング用の大剣を振っている。本剣より軽く、重心も浅い。強化後の本剣はさらに重くなる。今の素振りでは完全な再現はできない。それでも彼は振り続けていた。


振り出しをあえて遅らせ、溜めを作ってから踏み込む。理屈では分かっている。だが体が応えきれていない。軌道がわずかにずれる。それでも止めない。ずれを確認し、もう一度振る。


アイリスは的に向かってナイフを放っていた。


今の刃と本物では、飛び方が違う。強化後はさらに変わる。それを承知の上で、今の感覚を一つずつ刻むように投げている。1本ごとに、わずかな間を置く。指先に残る重みを確かめるような静かな間だった。


エルザは壁際で影に溶け、そして出る。


出る瞬間の足裏の感触、空気の密度、視界の揺れ。今の装備では問題はない。だからこそ、問題のない状態を正確に覚える。変化した後に何がずれたのかを測るための基準を、体に刻んでいる。


ハンスはハンマーを担ぎ、歩幅と重心を調整していた。


強化後の装甲は重量が増す。今の歩幅のままでは確実に遅れる。前に出るタイミングを早めるか、踏み込みを浅くするか。何通りかを試し、首をわずかに振る。まだ馴染んでいない。


セイラは杖を構え、出力を段階的に上げていた。


小さな魔力から始め、少しずつ強める。杖の先に白い霧がかすかに生まれ、すぐ消える。その揺らぎを目で追いながら、呼吸を整えている。制御の幅を今のうちに広げておくつもりだ。


ユイは短剣を両手に持ち、影歩を繰り返していた。


嵌め座が入る新しい防具は確実に重くなる。戻る位置、踏み替えの角度、着地の静音。今の感覚で基準を固めておかなければ、変化後に迷う。


約1時間。やがて訓練は自然に収束した。


食堂に移動する流れもまた、誰が決めたわけでもない。


席に着くと、カイルが先に口を開いた。


「正直に言うと」


少しだけ息を吸う。


「溜めの感覚が作りきれていないです。軽すぎて、強化後を想像しても体が追いつかない。やり方を変えるべきか、迷っています」


笑う者はいなかった。


ハンスが短く答える。


「前に出るタイミングを早める。今からずらす」


「距離も変わるな」とユイが言う。


「……確認する」


「相談させてください」


カイルは素直に頷いた。


アイリスが椅子にもたれた。


「今の感覚と強化後の感覚、両方変わるのがきつい。トレーニング用は基準になりきらない」


ハンスが視線を上げる。


「今の感覚を崩すな。数をこなせば定着する。500回だ」


「了解」


短い返事だった。


セイラがぽつりと言う。


「杖が語りかけてくる感じ、今からあった方がいいんでしょうか」


アイリスが半笑いになる。


「それ、ちょっと怖いけど大丈夫?」


「分かりません。でも、あったら心強いなって」


「素直だな」


「はい」


リリアが紙に視線を落としたまま言う。


「消費量の再計算は今夜まとめますわ。明日の朝、全員に共有します」


紙に走るペンの音が静かに響く。


一通り言葉が出そろい、食堂に小さな沈黙が落ちた。


ユイがエルザを見る。


「エルザはどう思う」


全員の視線が集まる。


エルザは少しだけ間を置き、静かに答えた。


「慣らしは必要だ。焦るな」


それだけ言い、視線を落とす。


過不足のない言葉だった。


静かな納得が、空気に広がる。


ただ1人、セイラだけがどこか遠くを見ていた。完成後の杖を思い描いているのか、それとも別の何かを。


合わない部分を口にしたことで、わずかに整ったものがあった。


だが同時に、変化は確実に近づいている。


それを全員が分かっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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