第144話 嵌め座と、統一の印
「防具の一部に、素材を後から入れ替えられる座を設けたい」
ユイが言った。
工房が静まり返る。ゴードンは眉一つ動かさず、ユイを見ていた。全員の視線が集まる。
「防具の本体はそのままにして、属性を決める芯素材だけを換装できるようにする。相手の属性が変われば、芯を入れ替えて対応する。私はこれを嵌め座と呼んでいる」
「……聞いたことがない」
ゴードンが腕を組む。値踏みではない。言葉の中身を追っている目だ。
「私だけでなく、全員の防具に設けたい。それぞれの属性と動き方に合わせた構造で、新規に作り直す形になる」
ゴードンが動かなくなった。
作業台の上に並ぶ8人分の装備を見る。次にユイを見る。再び装備を見る。目を閉じ、何かを計算し始めた。炉の低い音だけが工房に響いている。
誰も口を開かない。
アイリスが隣のセリスの袖を引いた。小声だが、静けさの中でははっきりと聞こえる。
「それ、すごくないか」
セリスが小さく頷く。エルザは動かない。カイルは腕を組んだまま前を向いている。リリアは杖を持ち直し、静かに立つ。ハンスは微動だにしない。セイラは作業台の上を見つめていた。
ゴードンが目を開く。
「8人分、全部か」
「ああ。それぞれの装備種別と属性に合わせて設計してほしい。軽装には軽装の構造で、重装には重装の構造で」
「接合の方法は」
「圧着と魔力接合の両方を使う。どちらかが欠けても保持できるようにする。外すときは工具が要るが、入れ替えは慣れれば短時間でできる」
ゴードンは再び黙った。今度は長い。
炉が低く鳴る。奥で金属が冷える音がした。ゴードンは作業台の端に置かれた紙を手に取り、8人の顔を順に見る。それぞれの体格、装備の種別、動き方を思い出すような視線だった。
「……やってみる」
空気がわずかに動く。
「ただし時間がかかる。8人分を一から設計して作る。武器への応用はまだしない。防具だけだ。失敗すれば最初からやり直す。それでいいか」
「構わない。頼む」
ユイが頷く。ゴードンも短く頷き返した。
「既存の装備の強化と修理は並行して進める。ただし嵌め座を設けた防具が完成した時点で、今の防具は役目を終える。新しい防具に切り替えることになる」
「全員分の防具が揃う、ということか」
「そういうことだ」
静かな言葉だった。
8人が同じ構造の防具を持つ。初めてのことだ。その意味を、それぞれが少しずつ受け取っていく。
ゴードンが全員を見渡した。
「もう一つ、聞く」
誰も口を開かない。
「統一の印を入れるか。全員の防具に同じ紋章を刻む。希望があれば入れる。なければ入れない」
静寂が落ちる。
カイルが隣のリリアを見る。リリアは前を向いたまま、わずかに目を細めた。アイリスは少し顔を上げる。エルザは動かない。ハンスは正面を向いたままだ。セリスは手を膝の前で重ねる。セイラは装備の並ぶ台を静かに見つめていた。
「入れる」
ユイが答えた。迷いはない。
「デザインは後で持ってこい。決まったらすぐに来い」
「ああ」
「嵌め座の設計と8人分の新規製作が入る。完成まで10日かかる。工期は延ばせない」
「了解した」
ゴードンはユイの防具を手に取り、工房の奥へ向かった。それが今日の終わりの合図だった。全員が頭を下げ、工房を出る。
外の光が目に刺さる。空は晴れていた。鍛冶地区の通りに金属の音が遠く響く。工房の中とは違う空気だ。
8人は並んで歩き出した。
少し進んだところで、アイリスが足を緩める。
「統一の印か……」
小さな声だった。誰に向けたわけでもない。ただ、胸に溜まったものがそのまま言葉になった。
誰も続けない。
それでも、全員の歩幅がほんのわずかに揃っていた。
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