第143話 鋼鉄の爪亭、3日後
王都の石畳を8人で歩いた。
朝の光が通りに差している。荷馬車が横を通り過ぎ、露店の声が遠くから届く。いつもと変わらない王都の午前。それでもユイの足だけが、わずかに早かった。
3日前、全素材をゴードンに渡した。
「3日後に来い」
そう言われていた。今日がその日だ。
鋼鉄の爪亭の扉を押すと、空気が変わる。
店構えはいつもと同じだ。だが鉄と熱の匂いが外まで漏れている。炉の音が低く響く。金属を叩く音はない。それでも工房全体に、3日間思考を止めなかった場所の静かな緊張が満ちていた。
「来たな」
カウンターの奥からゴードンが顔を出す。エプロンには焦げの痕。手の甲には熱で赤くなった跡が残っている。
「3日後と言っていた」
「ああ」
ゴードンは全員を手招きした。8人が工房に入ると、作業台の上が目に入る。
全員分の装備が並んでいる。
完成品ではない。3日前に受け取った状態のまま、丁寧に整えられている。カイルの大剣、リリアの光属性杖、アイリスの投擲ナイフ、エルザの短剣2本、ハンスのハンマーと超重装甲、セリスの水晶杖、セイラの氷杖、ユイの黒銀の防具一式。それぞれの横に、書き込みで埋まった紙が置かれていた。
「3日で全部の状態を確認した。重量、魔力消費、出力の変化も試算した。強化できるもの、修理で足りるもの、そのままでいいもの。一点ずつ伝える。今日ここで決めなくていい。持ち帰って考えろ。決まったらまとめて来い」
誰も口を開かなかった。ただ、全員がわずかに姿勢を正した。
ゴードンはカイルの大剣を持ち上げ、刀身を光に透かす。
「大剣は強化が必要だ。刀身のヒビは今は持っているが、このまま戦闘を重ねれば折れる。鍛え直して強化素材を入れる。重量は増す。振り出しは遅くなる。だが一撃の威力は上がる。大盾と銀防具はヒビなし、傷も軽微だ。修理で十分だ」
カイルは黙って剣を見つめた。指先が柄をなぞる。
次にリリアの杖。宝石部分を指で押す。
「宝石に濁りが出ている。魔力の通りが落ちているな。新しいものに換えて強化素材を乗せる。回復量は上がる。ただし消費も増える。後半で消耗が早くなる」
リリアは視線を宝石に落としたまま、小さく息を整えた。
アイリスのナイフを手に取る。
「刃の素材から変える。飛距離は伸びる。ただし重量バランスが変わる。今まで通りには飛ばなくなる。慣れが必要だ」
アイリスはナイフを受け取り、軽く振って感触を確かめる。
エルザの短剣2本。
「損傷なし。手入れは完璧だ。どうするかはお前が決めろ」
エルザは何も言わない。ただ刃を光にかざした。
ハンスの超重装甲を軽く叩く。
「ハンマーの柄は劣化している。巻き直しだ。装甲は強化できる段階に来ている。防御は上がる。ただし移動はさらに落ちる」
ハンスは装甲の縁に手を置き、重みを確かめる。
セリスの水晶杖。
「水晶のヒビは進んでいる。前にも言ったが、このまま強化を乗せれば割れる。水晶ごと新品に交換し、その後に強化を入れる」
セリスは杖を胸元に引き寄せ、静かに目を閉じた。
セイラの氷杖。
「魔力結晶の消耗が予想より進んでいる。補充だけでは足りん。強化を入れる。出力が変わる。制御の幅を広げておけ」
セイラは杖の結晶部分を見つめ、何かを測るように指を添えた。
工房には炉の音だけが響いている。
誰も返事をしない。だが、全員が自分の装備を見つめていた。重さを思い出し、動きを思い出し、これからの変化を想像している。
最後にゴードンがユイを見る。
「ユイ。短剣は問題ない。完璧な手入れだ。防具については、お前から話があるんじゃないか」
視線が集まる。
ユイはゆっくりと息を吸った。
作業台の上の防具を見つめる。
「一つ、聞いてほしいことがある」
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