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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第18章 受け取ること、使うこと

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第142話 リリア、それでいい

全員が引き上げていった。


「おやすみなさい」


カイルがそう言い、アイリスが軽く手を振りながら廊下へ出る。エルザが無言で立ち上がり、ハンスがその後に続いた。セリスが椅子を引いて立ち、セイラが音もなく食堂を出た。


足音が遠ざかっていく。


やがて静かになった。


食堂に残ったのは2人だった。


リリアは席を立っていない。椅子に座ったまま、膝の上に杖を置き、テーブルの地図を見ている。背筋は伸びている。いつもの姿勢だ。


ユイもテーブルの前に座ったまま待った。急がない。今夜は、待つと決めている。


しばらく沈黙が続く。外から王都の夜の音が届く。遠い馬車の音。風の音。灯りが壁に影を作っている。


リリアが口を開いた。


「全員に話してくれてありがとうございます」


「約束したからだ」


短い返答。


また沈黙が来る。


リリアが膝の上の指先を一度重ねる。それから顔を上げた。


「……ユイさんは、話すことが苦手なんですか」


「そうじゃない」


すぐに否定する。


だが、そのあとに言葉が続かない。


「……話して、間違っていたらという考えが先に来る。そのまま止まる」


自分で口にして、ようやく形になる。


リリアは頷いた。すぐには返さない。何かを確かめるように考えている。


「間違っていても、一緒に修正できます」


静かな声だった。


「私たちはそのためにいるのではありませんか」


ユイは視線を落とす。テーブルの地図が視界に入る。5点の印。その延長線上の空白。


「……そうだな」


認める声は低い。


リリアの目に、あの夜とは違う何かがある。涙が落ちた夜とは違う。今夜は乾いている。揺れていない。静かな決意に近い光が奥にある。


「一つだけ言ってもいいですか」


「言え」


リリアは少し息を整えた。


「孤独でいることと、一人で考えることは違います」


落ち着いた声だ。揺れていないからこそ、言葉が真っ直ぐに届く。


「ユイさんはずっと一人で考えすぎていた。仲間がいながら、一人で全部を抱えていた。それは孤独と同じです」


ユイは答えない。


否定できないからだ。


「でも今夜、それを自分で認めてくれた。全員の前で。それが私には……嬉しかったんです」


最後の言葉が少し小さくなる。嬉しかった、という音を出すまでに、わずかな間があった。


沈黙が落ちる。


食堂の灯りが揺れる。風が窓の隙間から入り、壁の影を動かす。


ユイは地図から目を離さないまま、胸の奥の感覚を確かめる。重さが少し薄い。誰かに預けた分、確かに軽い。


それから、一言だけ出た。


「リリア、それでいい」


リリアがわずかに目を見開く。


名前で呼んだ。役割でも敬称でもなく、名前だけで。


それだけのことだが、今まで一度もなかった。


リリアは静かに頷いた。


「おやすみなさい、ユイさん」


「ああ。おやすみ」


リリアが立ち上がり、杖を手に取る。食堂の扉を開け、廊下へ出た。振り返らない。扉が静かに閉まる。


ユイは1人になった。


テーブルの地図を見る。


岩場、深森、山岳、湿原、氷洞。5点の印を指でなぞる。延長線上に空白がある。名前のない場所。記録のない場所。


何があるのか、まだ分からない。


3日後、装備が完成する。


その先にある空白を、もう1人では見ない。


そのことが、思ったより軽かった。


第17章 完

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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