第141話 謝る
全員が地図を見終えた後、しばらく誰も口を開かなかった。
食堂の灯りが壁に影を作っている。王都の夜の音が遠くから届く。馬車の音。風の音。拠点の中は静かだ。7人がテーブルを囲んだまま、それぞれが何かを考えている。
ユイは立ったまま、地図の上に置いた自分の手を見ていた。ここまで言った以上、もう引き返せない。抱えたまま進む道は選ばないと決めた。
もう一度、口を開く。
「謝る」
静寂が落ちた。
カイルが少し姿勢を正す。アイリスが腕を組んだまま視線を向ける。エルザが背もたれから体を起こす。ハンスは前を向いたまま動かない。セリスが顔を上げる。セイラが地図から目を離す。リリアが静かにユイを見る。
「最初に気づいた時から話すべきだった。話せる状況はあった。それを選ばなかった。仲間として、それは間違いだった」
理由は付けない。言い訳もしない。ただ、間違いだったと言う。
胸の奥がわずかに軽くなる。だが、それは許されたからではない。自分で選び直したからだ。
最初に応えたのはカイルだった。
「……謝罪は受け取りました」
真剣な声だ。いつもの勢いはない。重さを持って受け取ったという声音。
アイリスがすぐに続く。
「謝罪よりも、これからの話がしたい」
真っ直ぐだ。
「地図の空白の先、どうするつもり」
「装備が揃ったら動く。全員で」
即答だった。
アイリスは少し間を置く。
「じゃあいい」
それだけだ。条件が揃えば動く。全員で行く。それが分かれば十分。
エルザが立ち上がる。
椅子を引く音が食堂に響く。全員が視線を向ける。
「向こうへ行くなら、俺も行く」
短い。理由も説明もない。ただ行くと言った。
ハンスが無言で頷く。重い動作だが、迷いはない。
セリスが顔を上げる。目は揺れていない。
「一緒に行きます」
声は柔らかいままだが、芯がある。不安よりも先に、同行の意思が出ている。
セイラは何も言わない。
一度だけユイを見る。視線が合う。そこに問いはない。ただ確認がある。それだけで十分だというように、再び地図へ目を戻す。
リリアがユイを見る。
その目が、今夜初めてはっきりと温度を帯びる。責めてもいない。許してもいない。ただ、同じ方向を見ようとする静かな決意がある。
それでも、まだ何も言わない。
ユイは7人を見渡す。
受け取られた。前を向くと言われた。行くと言われた。頷かれた。一緒に行くと言われた。無言の同意があった。静かな決意があった。
一人で抱える選択は、もうここにはない。
「装備が完成したら、全員で動く。地図の空白の先へ。今分かっていることは今日話した全部だ。それ以上はまだない」
「わかりました」
カイルが答える。
「了解」
アイリスが短く言う。
エルザが椅子に座り直す。ハンスは静かに息を吐く。セリスが小さく頷く。セイラは何も言わない。リリアは視線を落とし、ゆっくりと瞬きをした。
食堂の空気が変わっていた。
重さは残っている。だが、さっきとは違う。前を向いた重さだ。
ユイは地図を畳む。
今夜、やっと同じ場所に立てた。
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