第140話 みんな、すでに気づいていた
最初に口を開いたのはカイルだった。
「……毎回、何かを見てましたよね。で、ユイさんが少し黙ってた」
責める声ではない。確認だ。遠征のたびに、ユイが何かに気づき、わずかに沈黙する瞬間があった。そのたびに聞こうとして、やめた。今なら繋がる、という声音だった。
「そうだ」
ユイが短く答える。
「岩場から気づいていた。毎回確認して、毎回同じ方向に向いていた。それを話さなかった」
カイルはゆっくり頷く。それ以上追わない。納得の形だ。責めるためではなく、揃えるための確認。
アイリスが口を開いた。
「なんで言わなかったの」
まっすぐな問いだ。遠回しにしない。
「確証がない状態で話して、間違っていたら皆に余計な重さを背負わせると思っていた」
即座に返る。
「それは決めつけだ」
空気が一瞬止まる。
ユイは少し黙った。
「……そうだな」
認める。言い訳は重ねない。
アイリスは腕を組んだまま、静かに息を吐く。怒りではない。言うべきことを言っただけだ。
エルザが視線を上げる。
「方向の先は何だ」
感情はない。ただ必要な情報を求める声。
「まだ分からない。地図に記録がない。古代エルフの地図に標はあるが、名称が消されている。何があるかは、行ってみないと分からない」
エルザは頷く。それで十分だというように。
ハンスが低く言う。
「地図の空白への対処は、装備が完成してからか」
「ああ」
「……わかった」
順番が決まれば動ける。それで足りる。
しばらく誰も口を開かない。
その中で、セリスが小さく息を吸った。
「……怖くなかったんですか、一人で抱えて」
柔らかい問いだった。責めない。ただ知りたいという声。
食堂が静まり返る。
ユイはすぐに答えなかった。
怖くなかったかと問われれば、違う。怖さはあった。方向が揃いすぎていること。偶然ではないという確信。誰にも言わずに確かめ続ける選択。
だが、その怖さを口にすることはできなかった。
地図を見つめたまま、言葉を探す。
出ない。
沈黙が伸びる。
セリスはユイの顔を見つめ、それから視線を落とした。
「……聞いて良かったか分かりません」
小さく言い、膝の上で指を重ねる。後悔ではない。答えがなかったことへの理解だ。
テーブルの向こうで、セイラは無言のまま地図を見ている。5点の印を、ゆっくりと目でなぞる。何も言わない。ただ考えている。
部屋の空気は重くはない。ただ、静かだ。
そして、リリアだけがまだ何も言っていなかった。
テーブルの端に座り、杖を膝に置いたまま動かない。ユイの言葉も、カイルの確認も、アイリスの指摘も、エルザの問いも、ハンスの確認も、セリスの問いも、すべて聞いていた。
その目が、今夜初めてわずかに温度を帯びる。
静かな光が宿る。
まだ何も言わない。
だが、次に口を開くのは自分だと決めた目だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、
ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。




