第138話 鋼鉄の爪亭で、預ける
王都に戻ったのは夕方だった。
全員で荷をほどき、素材の状態を確認する。火精核と雷結晶、最後の2点だ。破損はない。輸送中に問題はなかった。
「行くぞ」
ユイが言い、全員がついてきた。
鋼鉄の爪亭へ向かう道は短い。王都の中心から少し外れた一角に、工房の看板がある。金属を叩く音がいつもならここまで届いているが、今日は静かだ。
扉を開けると、ゴードンがカウンターの奥で何かを研いでいた。
「来たか」
顔を上げずに言う。
「全部揃った」
ユイがカウンターに素材を並べ始める。
1点ずつ置いていく。魔石、硬鱗、鋭牙、魔核、硬岩、魔獣皮、再生石、氷精核、火精核、雷結晶。
10点が並んだ。
ゴードンが手を止める。カウンターに近づき、素材を1点ずつ手に取った。魔石を指の腹で触れ、重さを確かめる。硬鱗を光にかざし、表面を見る。鋭牙を爪で叩き、音を聞く。魔核を握り、密度を確かめる。
確認の動作は無言だ。急がない。1点ずつ丁寧に見ていく。
「緊張しますね……」
カイルが小声で言う。
誰も答えない。全員がゴードンの手元を見ている。
硬岩、魔獣皮、再生石、氷精核、火精核。
最後に雷結晶を手に取る。青白く光る結晶だ。光にかざし、角度を変え、表面を指で撫でる。少し間を置いた。
カウンターに戻す。
「よく揃えた」
それだけだ。褒めも貶しもしない。ただの確認。
ゴードンが10点の素材を一通り見渡す。指で1点ずつ触れながら、頭の中で何かを組み立てている。
工房の中が静まり返る。誰も口を挟まない。
「素材の数と質は分かった。お前らの装備の状態も前に見ている。どう使うか、誰に何を当てるか、俺なりに考える」
「頼む」
「3日後に来い。その時に全員まとめて結果を伝える。修理と強化、どちらをどこまでやれるか、その場で説明する」
「全員連れてくる」
「ああ。8人全員だ。装備を直接確認しながら話す」
ゴードンが素材を1点ずつ丁寧に布へ包み始める。それを見届けてから、ユイは工房を後にした。
外に出ると、夕方の王都の空気が顔に当たる。溶岩帯の熱も雷原の帯電も、ここにはない。乾いた、普通の空気だ。
「ついに……」
カイルが小さく言う。
「長かったね」
アイリスが言った。
「はい」
セリスが小さく答える。
エルザは何も言わない。ただ少しだけ足の速度を落とす。ハンスは無言で前を向く。リリアは静かに工房の扉を振り返る。セイラは何も言わない。
ユイは全員を見渡す。
岩場から始まった。深森、山岳、湿原、氷洞、溶岩帯、雷原。7つのフィールドを回り、10点の素材を集めた。怪我をした。消耗した。戦術を作り直した。何度も想定が外れた。それでも全員が戻ってきた。
3日ある、とユイは思う。
装備が完成する前に、やることがある。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、
ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。




