第136話 雷が、声より速い
溶岩帯を出て1日、景色が変わった。
山肌の赤みが消え、平原が広がる。草も木もない。ただ地面が黒く焼けている。空気が違う。肌がちりちりする。髪が静電気で浮く感覚がある。
雷原だ。
平原の上空に稲妻の筋が常時走っている。音もなく光り、消え、また光る。止まらない。遠雷ではない。地面のすぐ上を電気の線が這っている。
「カイル、止まれ」
ユイが短く言った。
カイルの銀色の鎧の表面が、微かに光っている。放電している。金属が帯電している。
「……あ、腕がしびれます。少し」
「鎧に電気が来てる。接触するな。距離を保て」
「はい。ただ、動けないわけじゃないです。今のところ」
ハンスの装甲も同様だった。石と金属の継ぎ目から微かな放電が走っている。ハンスは無言で自分の腕を見て、それから前を向いた。
「……問題ない」
「把握した。2人は敵との直接接触を最小限にしろ」
「了解です」
後衛は金属装備が少ない分、帯電の影響は小さい。リリアの杖は木製だ。セリスの水晶杖はわずかに反応しているが、魔法の使用には問題ない。アイリスの軽装は問題なし。エルザの黒装束も反応していない。
「セリス、感知できるか」
セリスが水晶杖を前に向け、少し間を置く。
「……あそこです」
迷いがない。指が一点を示す。平原の中央よりやや右、距離は100メートルほど。
「確かか」
「はい。水じゃないですけど、似た何かが動いてます。前に感じたのと同じ感覚です」
氷洞でアイスエレメンタルを感知した時と同じ感覚だ。エレメンタル系は水感知に引っかかる。
「アイリス」
「同じ方向。1体だけだと思う」
「よし。全員、指示があるまで動くな」
ユイは平原を見渡す。地面は黒く、草もない。隠れる場所も遮蔽物もない。戦い方は単純になる。引きつけて、崩す。
「エルザ、左から回れ。影は使えるか」
エルザが地面を見た。空が開け、影は薄い。だが岩の陰がいくつかある。
「……薄いが、使える」
「接近して毒刃を入れろ。動きを鈍らせるだけでいい」
「わかった」
「リリア、光魔法で亀裂を作れるか」
「溶岩帯より温度差が作りやすいですわ。帯電していますが、光魔法への影響は今のところありません」
「ハンス、亀裂が入ったら重撃を入れろ」
「……ああ」
「カイル、引きつける。ただし触れるな。距離を詰めすぎたら即退け」
「わかりました。任せてください」
全員が動き始める。
カイルが前に出た。平原を走り、エレメンタルの方向へ向かう。50メートルの距離に入ったところで、電撃の放電体が姿を現した。
サンダリオンだ。
球体に近い形で、表面を電気が絶えず走っている。高さは1メートルほど。小さいが密度がある。
カイルの盾に電気が伝わる。
「くっ……」
腕が一瞬しびれる。だが退かない。盾を前に出し、距離を保つ。サンダリオンの注意がカイルへ向いた。
その隙にエルザが左から接近する。地を這うように走り、岩の影に沈む。影潜みで音が消える。死角から毒刃を差し込んだ。
サンダリオンの動きが鈍る。
「リリア」
「今ですわ」
光魔法がサンダリオンの表面に集束する。温度差が走り、表面に亀裂が入る。電気の流れが乱れた。
「ハンス」
ハンスはすでに動いていた。重い足音が平原に響き、ハンマーが振り下ろされる。亀裂の中心に直撃した。
サンダリオンが崩れる。
電気が散って消え、雷結晶が地面に落ちた。青白く光る結晶だ。
「思ったより早かった」
アイリスが言う。
ユイは頷いた。
「これで、揃った」
雷結晶を回収しながら、ユイは頭の中で確認する。魔石、硬鱗、鋭牙、魔核、硬岩、魔獣皮、再生石、氷精核、火精核、雷結晶。10点全部だ。
ただし、誰も気づいていなかった。
丘の向こうで、それを静かに見ている者がいることに。
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