第134話 炎は、同じ場所では倒せない
フレイムエレメンタルが前進してきた。
速くはない。ゆっくりと、だが止まらない。近づくだけで熱波が先に来る。5メートルの距離で、もう顔が焼けるような圧がある。
「カイル、受けられるか」
「やります!」
カイルが盾を前に出し、エレメンタルとの距離を詰めた。爆炎が散弾状に広がる。盾の表面で弾いたが、熱量が鎧全体へ伝わる。
「熱が鎧ごと来る……っ」
歯を食いしばりながら押し返そうとするが、足元が滑る。溶岩の上だ。踏ん張る地面がない。
「ハンス、支えろ」
無言で横に入る。2人で圧力を分散させる。
前進は止まった。だが押し込めない。
「セイラ、撃て」
セイラが杖を構える。氷槍を形成し、エレメンタルの中心部へ放つ。白い光の線が空中を走り、直撃した。
音がした。鈍い、吸い込まれるような音だ。
氷槍は砕けなかった。体表に触れた瞬間、形を失い、そのまま消える。エレメンタルが一瞬だけ揺れ、すぐに元の形へ戻る。
「……効かない。地熱が邪魔してる」
セイラの声は低い。
氷槍は作れる。だがここでは、発射した直後から威力が落ちる。地面から上がる熱が、魔法の冷却を相殺している。
「リリア」
「試します」
リリアが光魔法をエレメンタルの表面に当てる。光の刃が体表に触れ、一定の損傷を与えた。だが持続しない。熱量に押され、光の密度がすぐに落ちる。
「……効果はあります。ただし、この環境では維持できませんわ」
「わかった」
2体目が横から回り込んでくる。
「もう1体来た、右から」
アイリスが声を上げる。
エルザが音もなく右側へ滑り、影の中に沈む。2体に挟まれる前に位置を取り直す。
「退がれ。場所を変える」
ユイが判断した。
「カイル、下がれるか」
「いけます!」
「ハンス、盾維持」
「了解」
後退の合図が出る。2人は防御を保ったまま下がる。エレメンタルは追ってくるが速くない。距離は維持できる。
「撤退中に攻撃を受けるな。距離だけ保て」
「了解です!」
後退しながら、ユイは頭の中で整理する。
炎属性は無効。氷は地熱に殺される。光は効くが持続しない。
この場所では戦術が成立しない。
場所を変えなければ勝ち筋がない。
「エルザ」
名を呼ぶと、即座に返る。
「さっき通り過ぎた、溶岩の筋が途切れた場所がある。地熱が低かった。そこなら氷が生きる」
短い。だが必要な情報は全部入っている。
「場所はわかるか」
「……ああ」
「距離は」
「200メートルほど後方」
ユイは即断する。
「そこへ誘導する。全員、後退しながらエレメンタルを引きつけろ。エルザ、先行して場所を確保しろ」
「わかった」
エルザが歩き始める。
「アイリス、引きつけながら距離を保て」
「わかった。任せて」
アイリスが投擲を1つ放つ。エレメンタルの注意がそちらへ向く。その隙に全員が距離を広げる。
熱波が背中に当たる。
「カイル、無理するな」
「まだいけます!」
「セイラ、温存」
「了解」
「リリア、次は合図で」
「承知しましたわ」
隊列が入れ替わる。
エルザが先頭。ユイが最後尾でエレメンタルとの距離を管理する。
いつもと違う順番だった。
2体のフレイムエレメンタルが後を追う。ゆっくりと、だが確実に。
炎は、同じ場所では倒せない。
ならば、倒せる場所へ連れていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、
ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。




