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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第16章 錆びた道化と師匠の嘘

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第132話 ユイの部屋で、夜が明ける

王都に戻ったのは夕方だった。


全員で荷をほどき、素材をゴードンへ届ける。氷精核を手渡すと、ゴードンが表面を確認しながら言った。


「質はいい。アイスエレメンタルにしては大きい個体から取れたな」


「残りはあと2点だ」


ユイが告げると、ゴードンは短く頷いた。


「溶岩帯と雷原か。そっちは気をつけろよ。氷洞より手応えがある」


ギルドへの報告を済ませ、全員が拠点に戻った。


セリスが夕食を作った。温かい汁物と、焼いた肉。遠征の後の定番だ。


カイルが「おいしいです」と言い、セリスが「よかったです」と答える。ハンスが音もなく椀を空にして、もう一杯よそった。


アイリスが「ゼックさん、また会えるといいね」と言い、カイルが真剣な顔で「筋肉の話、まだ途中でしたし」と返す。


笑いが起きた。


エルザが小さく口端を上げた。それだけだったが、ユイは見ていた。


リリアは静かに食事をしていた。会話には加わっていないが、険しい顔でもない。ただ、どこか思考の奥へ沈んでいる目をしている。


夕食が終わり、全員が部屋へ引き上げた。


ユイは自分の部屋に戻り、机の前に座った。


地図を出す前に、今日の報告を頭の中で整理する。氷精核は確保済み。残りは火精核と雷結晶。次は溶岩帯か雷原。どちらも氷洞より難度は上がる。


整理が一段落したところで、扉が小さく鳴った。


「……少し、話してもいいですか」


リリアの声だった。


「入れ」


扉が開き、リリアが入ってくる。室内を見回すことなく、静かに椅子に座った。背筋は伸びている。いつもの姿勢だ。


しばらく沈黙が続いた。


外から王都の夜の音が届く。遠い馬車の音。風の音。部屋の中は静かだった。


リリアが口を開いた。


「昼間は……取り乱しました」


「謝るなと言った」


「ええ。ですが、自分の中で整理をつけたいのです」


膝の上で重ねた指先に、わずかに力が入っている。


「私は、待てるつもりでした。ユイさんが何かを抱えていると感じても、いつか話してくださると信じていました」


ユイは黙って聞く。


「師匠のことも、失踪の方向が揃っていることも。全部」


声は落ち着いている。だが、芯の部分に震えがある。


「でも、限界がありました。私は冷静でいたつもりでも、人間ですから」


ユイは視線を落とした。


「……ユイさんは、なぜ一人で抱え込むのですか」


責める響きはない。ただ、理解しようとする問いだ。


ユイは少し考えてから答えた。


「話して、間違っていたら迷惑をかけると思っていた」


「間違っても、一緒に修正できます」


即答だった。


「私たちは、そのためにいるのではありませんか」


ユイは息を吐いた。


「……そうだな」


短い肯定だった。だが、それは逃げではなかった。


リリアの目に涙が浮かぶ。今度は隠さない。静かに、一粒ずつ落ちる。声は乱れない。ただ涙だけが落ちる。


「私は、あなたを信じたいのです」


「ああ」


「信じていいですか」


「ああ」


沈黙が戻る。


部屋の灯りが壁に影を作る。王都の夜は静かだ。湿原の湿気も、氷洞の冷気も、ここにはない。乾いた空気が窓の隙間から入ってくる。


リリアが目元を拭い、立ち上がった。


「全員に話す約束、忘れないでください」


「忘れない」


それだけで十分だった。


扉が閉まる。


ユイは一人になった。


天井を見上げる。


前世で後悔したことのひとつが胸をよぎる。話さなかったことで、間に合わなかったこと。仲間が自分の外側にいるまま、取り返しのつかない事態になったこと。


知っていても、同じことを繰り返しかけていた。


知識があっても、行動が変わらなければ意味がない。


今日、それを突きつけられた。


机の上の地図に視線を落とす。


5点の線。地図の空白。残り2点の素材。


やるべき順番は変わらない。


だが、背負い方は変えられる。


装備が揃ったら、全部話す。


自分の中でもう一度、その言葉を確定させる。


灯りを消した。


夜は静かに続いている。


第16章 完

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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