第131話 なぜ信じてくれないんですか
帰路の2日目だった。
山道を下り、街道に近づくにつれて空気が柔らかくなる。足元の霜が減り、草が戻ってくる。ラスティとは氷洞の前で別れた。ゼックが「またどこかで」と手を振り、ノアが無言で踵を返した。ナオミだけが最後に振り返り、リリアを一度見てから歩き去った。
リリアはその背中を見ていたが、何も言わなかった。
クロウフォールの8人が街道を歩く。会話は少ない。アイリスが索敵を続け、エルザが後方を確認する。カイルが昨日のゼックとの会話を反芻するように少し笑っている。ハンスが無言で歩く。セリスとセイラが並んでいる。
リリアがユイの隣に並んだのは、昼を少し過ぎた頃だった。
最初は黙って歩いた。
歩幅を合わせて、前を向いたまま。2人の間に会話がない時間が続いた。他のメンバーが自然に少し前へ進み、2人だけになる形になった。
「ユイさん、聞いてもいいですか」
「何だ」
「野営の夜、師匠と長く話していましたね」
「ああ」
「何を話したんですか」
「情報の共有だ」
リリアが止まった。
ユイも止まった。他のメンバーの足音が少し遠くなる。
「師匠が私に教えなかった情報を、ユイさんには話した。そういうことですか」
「互いに知っていたことを確認した。それだけだ」
「ユイさんは前から、師匠の調査を知っていたんですよね」
「ああ」
リリアが少し間を置いた。
「……最初に師匠を紹介した時から、ですか」
ユイが答えない。
その沈黙が答えだった。
リリアの声が少し揺れた。丁寧語は崩れない。だが抑えているものが、端の方から滲み始めている。
「私は最初からいました。クロウフォールの最初のメンバーです。ユイさんを信じて、ここまで来ました」
「……」
「失踪情報が積み重なっているのも、方向が揃っているのも、うすうす感じていました。でも聞いても答えてもらえなかった。師匠のことも、昨日初めて知りました」
声が細くなる。目が少し赤い。
「なぜそこまで信じてくれないんですか。私たちは、仲間ですよ」
ユイが答えない。
「仲間なら、危険なことでも伝えてください。不安にさせてもいいんです」
リリアの声がさらに小さくなる。
「一人で抱えていたら、あなたが壊れます」
それでもユイは答えない。
リリアが一歩前に出た。ユイと向き合う形になる。
「なぜ」
声が震える。目から涙が一筋落ちた。リリア自身が驚いたように目を見開く。
「なぜ言ってくれなかったんですか」
声が少し大きくなる。叫んではいない。ただ、今まで抑えてきたものが少しだけ溢れた。それだけだ。
ユイが静かに言った。
「謝るな」
リリアが口を押さえる。涙がまた落ちる。
「お前は正しい」
リリアが目を伏せた。唇が少し震えている。涙を拭かない。拭く動作が今はできない、という様子だった。
ユイが続けた。
「装備が揃ったら、全部話す。全員に。約束する」
リリアが涙を拭かないまま頷いた。
前を向いて、歩き始めた。
ユイも同じ方向を向いて歩き出す。
前方でアイリスが一瞬だけ振り返った。2人の様子を見て、何も言わずに前を向いた。
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