第130話 線の先に、地図にない場所がある
焚き火の端は静かだった。
他の全員は少し離れている。ゼックとカイルがまだ話し込んでいる。ハンスが薪を足している。セリスとアイリスが毛布を広げている。エルザとセイラはそれぞれ黙って座っている。リリアは少し離れた岩に背をつけ、目を閉じていた。
ナオミが先に口を開いた。
「ラスティの情報網で、失踪の報告を集めていた。岩場、深森、山岳、湿原。今日、ここで5点目が揃った」
ユイが頷く。
「同じ方向に向いている」
ナオミが驚く顔をしない。
「知っていたのね」
「岩場から気づいていた。でも、まだ仲間には話していない。確証がなかった」
「確証が出た」
ナオミが懐から折り畳まれた紙を取り出した。広げると、手書きの地図だった。ラスティが独自に記録してきたものだろう。王都のギルドが持つ地図より細かい場所もあれば、空白になっている箇所もある。
「5点の方向線を延ばした先に、地図に記録されていない地域がある」
ナオミが指で線を引く。岩場から始まり、深森、山岳、湿原、氷洞。5点を結んだ線の先に、地図の記載が途切れている場所があった。
「古代エルフの地図には、そこに何かの標が入っているけれど、名称が消されている」
ユイが地図を見ながら言った。
「意図的に」
「意図的に」
ナオミが繰り返した。
2人の間に少し間が落ちた。焚き火が低く燃えている。夜の山の冷気が足元から這い上がってくる。
「何かが集まっている」
「そう思っている。ただ、何が集まっているのかは、まだ分からない」
ユイは地図の空白を見つめた。前世の記憶の中にも、この場所はない。行ったことがないのか、それとも行けなかったのか。前世では辿り着く前に別の事態が起きた可能性がある。だが確かめる方法がない。
「失踪した冒険者は」
「戻っていない。全員が」
ユイは地図から目を離さない。
ナオミが続けた。
「ラスティの中でも、この件を知っているのはゼックとノアだけ。他のメンバーには話していない。動ける人間だけに絞っている」
「ノアが私を見ていた理由はそれか」
「あの子は慎重な人間よ。新しい要素が加わった時、必ず自分で確かめようとする」
遠くでノアが地図を広げているのが見えた。焚き火の光の届かない場所で、一人で何かを確認している。こちらの会話の方向は向いていない。だが、視線がたまにこちらへ流れてくる。
「クロウフォールの子たちに、話す気はある?」
ナオミが静かに聞いた。
ユイが少し間を置いた。
地図の空白を見る。5点の方向線を頭の中で引く。リリアの「わかりましたわ」の温度を思い出す。アイリスの「ユイは責任感が強すぎる」という声を思い出す。
「……まだ決めていない」
「なぜ」
「装備が完成していない。不完全な状態で動かせない」
「情報を共有することと、動かすことは別の話よ」
ユイが答えない。
ナオミが続けなかった。押しつけない。それもナオミという人物の流儀だとユイは知っている。
焚き火の向こうで、リリアが目を開けた。岩に背をつけたまま、天を見上げている。何を考えているかは分からない。
ナオミがそちらを見てから、静かに言った。
「リリアはあなたを信じたいと思っている。それは本当のことよ」
ユイは何も言わなかった。
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