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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第16章 錆びた道化と師匠の嘘

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第127話 道化は場の空気を全部読んでいる

氷洞を出ると、入口前の広場に雪が薄く積もっていた。


野営地の設営は自然な流れで始まった。ラスティとクロウウォールが同じ広場に陣取り、焚き火を2つ起こす。どちらから声をかけるでもなく、気づけば1つの焚き火を囲んでいた。


白銀のローブの人物は焚き火の向こう側、揺れる影の中にいて、その顔ははっきりとは見えなかった。


ゼックとカイルの会話が先に始まった。


「この大胸筋は防御の要です。盾と筋肉で二重に受けるんです」


「分かります、俺も昔はそう思ってました。今は……」


ゼックが革鎧の胸元を叩いた。鈍い音がした。


「脂肪が混ざってきましてね」


「それでも筋肉ですよ! 脂肪で守るのも戦術です!」


カイルが力強く言い、ゼックが「いい子だなあ」と笑った。焚き火の向こうでアイリスがそれを聞いて肩を揺らしている。


ゼックがハンスの腹を見た。


岩盤のように隆起した腹筋が、焚き火の光の中にある。


ゼックが正座した。音もなく、自然に。


「……師匠と呼ばせてください」


「……断る」


ハンスが低く、一言で終わらせた。


「理由を聞いても」


「……理由はない」


「余計つらい」


アイリスがまた笑った。今度はセリスも一緒に笑っている。


ゼックが立ち上がり、今度はセイラの隣に移動した。セイラは焚き火から少し離れた岩に座り、吐息を白くしながら周囲を見ている。


「さっきの氷槍の角度調整、どうやってますか。計算してますか、本能ですか」


セイラが1秒だけゼックを見た。


視線を外した。


返事はない。


ゼックが間を置かず自分で続ける。


「……あ、難しい質問でしたね。いや、でも答えなくてもわかります。天才系のやつは言語化できないって聞きますし。そういうことですよね。うん、分かった気がします」


一人で完結させた。


アイリスが「あなた本当に面白い人だね」と言った。


「そう言ってくれるの、あなただけです」


「さっきも言ってたよ、それ」


「2回言ってもいいじゃないですか。本当のことなんで」


場に笑いが生まれていた。ラスティの面々も、クロウウォールも、自然に声が出ている。焚き火が温かく燃えていた。


ユイは笑いながらも、ゼックを観察していた。


笑わせているのは確かだ。だがゼックの目は場を見ている。誰が笑い、誰が笑っていないか。誰が緊張を解き、誰がまだ警戒しているか。全部を把握した上で次の言葉を選んでいる。道化を演じながら、場の空気を全部読んでいる。


その間ずっと、ノアはユイの動きを目で追っていた。


食事の手順。荷物の配置。メンバーへの短い指示。ノアの視線はユイの行動から外れない。話しかけるわけでも、近づくわけでもない。ただ、見ている。


前世でどこかで会ったか。記憶を探り直す。出てこない。ラスティとの接点が前世にあったかどうかも曖昧だ。だがこの視線の種類には、ひっかかるものがあった。


知っている、という目ではない。


知ろうとしている、という目だ。


何を知ろうとしているのかが分からない。


「リリアさん、お茶いただいていいですか。冷えてきましたね」


ゼックがリリアに声をかけた。リリアが茶の準備をしながら、焚き火の向こうのラスティ側の顔を確認する。ゼック。ノア。そして——


リリアの手が止まった。


茶碗が微かに震える。


白銀のローブ。金髪。碧眼。穏やかな顔立ち。


焚き火の光がその顔を正面から照らした。


「……師匠」


声にならない形で、リリアの口が動いた。

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