第126話 錆びた連中が、笑いながら来た
足音は複数だった。
洞窟の奥から松明の光が近づいてくる。ユイは足音の数と間隔を数える。8人前後。歩き方に緊張がない。警戒している人間の動きではない。
「誰だ」
エルザが短く言い、手が短剣にかかった。アイリスが天井の突起へ戻り、高い位置から入口を見る。カイルが盾を前に出す。
「おー、こわいこわい。俺たちですよ、俺たち」
松明を持った人物が霧の中から現れた。
ぼさぼさの茶髪に無精髭。くたびれた革鎧は継ぎ接ぎだらけで、腰の剣の鞘には傷が多い。口端が自然に上がっている。全身から力が抜けていて、戦意というものが一切感じられない。
「ラスティです。知ってます? 錆びてるけど現役のやつら。あ、今ちょうど同じ洞窟にいましたね。偶然ですねー」
後ろから7人が続いて現れた。全員、装備はまちまちだが動き慣れた体をしている。
クロウウォール全員が武器を下げた。殺気がない。ただの冒険者だ。
「ゼック・アッシュさん、ですね」
リリアが静かに言い、男が少し目を丸くした。
「知ってんですか、俺のこと。いや嬉しいですね。有名になったもんだ」
ゼックと名乗った男が全員を見渡す。視線がカイルで止まった。目が輝く。
「おお。すごい大胸筋。俺、筋肉好きなんすよ。一緒に語りませんか」
カイルが少し戸惑いながらも素直に答えた。
「あ、はい……ぜひ」
ゼックがセイラに向き直る。
「あなたは氷魔法使いですよね。さっきのすごかった。斜面跳ね返しとか、普通やらないですよ。センスありますねー」
セイラがゼックを見た。0.5秒。それから完全に視線を外した。返事はない。
ゼックが一人で続ける。
「……あれ。無視されましたかね。俺、何かしましたかね」
アイリスが笑った。天井の突起から降りながら、声を立てて笑っている。
「気にしないで。そういう子なんだよ」
「そう言ってくれるの、あなただけです」
ゼックが今度はユイを見た。
笑顔のままだが、視線だけが変わった。品定めではない。ただ、正確に見ている。ユイの立ち位置、足の向き、周囲への目配りの方向。一瞬でそれをやってから、また笑顔に戻った。
「あなたがリーダーですね。なんか、見てる方向が全部違う。うわ一番怖い」
「ゼック・アッシュ。ラスティの古参。元Aランク」
ユイが平静に言うと、ゼックの笑みが少しだけ固まった。
「……よく知ってますね」
「冒険者なら知っている」
「そうですかね。俺、最近は全然目立ってないんですけど」
ゼックが頭を掻きながら後ろを振り返る。
「ノア、出てきていいよ」
後ろから人影が前へ出た。
黒い短髪。灰色の瞳。細身で音がない。背中に長弓、腰に短剣。動くたびに空気が変わらない、そういう歩き方をする女性だった。
ノア・クレインと名乗る前に、ユイはもう目が合っていた。
ノアの視線が0.5秒、ユイの上で止まる。それだけだ。挨拶もない。品定めでもない。ただ、確認した、という目だった。
前世でこの顔に会ったことがあるか。記憶を探る。出てこない。だがこの視線には覚えがある気がした。何かを知っている人間の目だ。
「他にもいますよ」
ゼックが洞窟の暗がりの方を向いた。
「最後のひとり、そろそろ出てきてください」
暗がりが動いた。
白銀のローブが松明の光を受けて輝く。長い金髪。碧眼。穏やかな顔立ち。その人物がゆっくりと歩み出てきた。
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