第125話 水が光になる瞬間
1体目は、そう時間もかからなかった。
カイルとハンスが亀裂の入った箇所へ同時に踏み込む。カイルが盾の縁を亀裂の中心に当て、全体重を前へ傾けた。ハンスがハンマーの側面で反対から押さえる。2人の力がエレメンタルの内部に集中した瞬間、亀裂が広がり、轟音とともに崩れた。
砕けた氷の破片が四方に散る。中心部から冷気が噴き出し、全員の吐息が同時に白くなった。
氷精核がいくつかの破片ごと地面に転がった。半透明の青白い光を持つ、拳ほどの塊だ。
「確保」
ユイが短く言い、エルザが素早く拾い上げて布に包む。
全員が少し動きを緩めた。アイリスが天井の突起から降り、セリスが肩から力を抜く。カイルが「やりましたね」と言い、ハンスが小さく頷いた。
だが全員が休んだのは10秒も経たないうちだった。
洞窟の奥から、音がした。
氷が割れる音ではない。何かが動く、引きずるような音だ。松明の光の届かない奥に、青白い光がまた灯る。
今度は大きい。
エレメンタルの体積が1体目の1.5倍はある。半透明の巨体が霧の中からゆっくりと進み出てくる。
「セリス、残魔力はどのくらいだ」
「半分、切っています」
「リリアは」
「まだ動けます。ただし長時間は難しいですわ」
ユイはエレメンタルを見ながら考える。前と同じ手順は使えない。セリスの水薄膜はコストが高い。長く張り続ければ、このまま枯渇する。
「セリス、固定は最小限でいい。動きを止める一瞬だけ確保しろ」
「分かりました」
「リリア、光の集束点を今度は中心に変えろ。表面温度の差より、内部に直接亀裂を入れることを優先する」
「……ですわね」
リリアが頷きかけ、続きを引き取った。
「打点に当てる、ですわね」
ユイは一瞬、リリアを見た。
「ああ。それでいい」
「セイラ」とユイが続ける。「今回は壁を使え。直撃はもう通らない。跳ね返った氷槍を——」
「核部分に当てる」
セイラが短く言い、杖の先を壁の方向に向けて角度を測り始めた。洞窟の内壁は氷の結晶で覆われている。反射の角度は読める。
エレメンタルが近づいてくる。冷気が前へ押し出され、足元に霜が走った。
「行くぞ」
セリスが水の薄膜を展開する。最小限の面積、最小限の時間。エレメンタルの動きが鈍った。その一瞬を使ってリリアが光を束ねる。
今度は表面ではなく、内部の中心に向けて集束させる。光が氷の体を通り抜けるように差し込み、内側で屈折する。
セイラが氷槍を放った。
真正面ではなく、左側の壁へ向けて撃つ。壁面で反射した氷槍が角度を変え、エレメンタルの中心部に当たる。通常では届かない軌道だった。
核の部分に亀裂が走る。
「カイル」
「行きます!」
カイルが踏み込んだ。亀裂の中心に盾の縁を当て、全体重を前に乗せる。ハンスが左からハンマーを亀裂に叩き込んだ。内側から壊れるような音がして、2体目のエレメンタルが崩れ落ちた。
氷精核が転がり出る。今度は少し大きい。
セリスがその場に座り込んだ。膝をついて、杖を支えにする。
「……疲れました」
息が少し荒い。顔色は悪くない。魔力が底をついたわけではないが、集中を使い切った顔だ。
「よくやった」
ユイが短く言った。
カイルがセリスの横にしゃがみ込む。「大丈夫ですか」と問うと、セリスが「大丈夫です、ちょっと座りたかっただけです」と答えた。
ハンスが氷精核を布で包む。アイリスが周囲の索敵に戻る。エルザが確保した素材を荷に入れる。
全員が作業に戻る静けさの中、ユイは洞窟の奥を見ていた。
霧は薄くなっている。2体を倒した後、冷気が少し弱まった気がした。
それでも。
洞窟の奥から、別の音がした。
足音だ。
だが氷の上を踏む音ではない。革か、布か。人間の足音だ。
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