第124話 同属性に、刃は届かない
青白い光が霧を割った。
高さ2メートルを超える体躯が、洞窟の奥から滑り出てくる。半透明の氷の巨体。腕も脚もない、ただの塊だが、移動するたびに壁の結晶が反射して複数の影が走る。アイスエレメンタルだ。
「前衛、距離をとれ。接触するな」
ユイの声に、カイルとハンスが後退した。
エレメンタルの動きは遅い。ゆっくりと前進し、その軌跡に薄い霜が積もっていく。遅いのは分かっている。問題は別のところにある。
「セイラ、一発試せ」
「……分かった」
セイラが杖を構え、氷槍を形成する。白い光の線が空中に引かれ、次の瞬間、エレメンタルの中心部に直撃した。
音がした。鈍い、吸い込まれるような音だ。
氷槍は砕けなかった。エレメンタルの体表に触れた瞬間、形を失い、そのまま吸収された。エレメンタルは一瞬だけ表面が揺れ、すぐに元の形に戻る。
「……吸収された」
セイラが低い声で言った。
全員が同じことを理解した。氷属性は通らない。同属性の攻撃を吸収している。
「カイル、一度受けてみろ。手応えを確かめるだけでいい」
「了解です」
カイルが盾を前に出してエレメンタルと距離を詰める。エレメンタルの体表が突き出すように変形し、カイルの盾を打った。カイルが踏ん張った。衝撃は大きくないが、盾を持つ腕に冷気が伝わり、肘のあたりまで痺れが走る。
「冷気が腕に来ます。凍りかけた」
素早く後退する。ハンスが加勢してエレメンタルの正面に立ちはだかり、ハンマーの柄で体表を叩く。金属が当たる感触はある。だが傷が入らない。叩いた箇所が一瞬凹み、すぐに再生した。
「岩じゃない。氷の表面が再生している」
ハンスが低く言い、再び後退した。
ユイは正面からエレメンタルの動きを観察する。遅い。接触攻撃に冷気がある。再生が速い。同属性を吸収する。それが今分かっていることだ。
「弱点は相反属性か、物理で動きを固定してからの打撃だ」
火属性は誰も持っていない。光属性はリリアが使える。物理打撃はカイルとハンス。問題は固定する手段だ。
「セリス」
「はい」
「水魔法でエレメンタルの外皮に干渉できるか。固体の氷より流水を制御する方が難しいはずだ。外皮の流動性を上げれば、動きを乱せるかもしれない」
セリスが一瞬考えた。杖を両手で持ち直す。
「……試してみます。私の水魔法で、外皮を流れにくくできるかもしれません。固体の氷より流水は制御しにくいはずで」
「やれ」
セリスが水の薄膜をエレメンタルの体表に張りつける。エレメンタルが再形成しようとする動きが、わずかに鈍った。表面の流動がゆっくりになっている。
「リリア、光魔法をエレメンタルの表面に集束させろ。急速に温度差を作れれば、内部に亀裂が入るはずだ」
リリアが射線を調整しながら答えた。
「外側を急激に温めれば、内側との膨張差で亀裂が走るはずですわ。やってみます」
リリアの光が束になり、エレメンタルの右側に当たる。エレメンタルの表面が微かに変色した。内部で何かが動く音がする。氷の割れる、細い音だ。
「亀裂が入っています」
リリアの声が少し上がった。
ユイはカイルとハンスを見た。2人が同時に頷く。
「固定して打撃。これが通る」
ユイが短く言い、カイルとハンスが同時に前へ踏み込んだ。
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