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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第16章 錆びた道化と師匠の嘘

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第123話 氷の洞窟は、静かすぎた

湿原の遠征から4日後、クロウフォールは王都を出た。


空気が変わったのは2日目の朝だった。街道が石畳から砂利道に変わり、やがて山道になる。一歩ごとに気温が落ちて、吐息が白くなる。セイラの吐息は最初から白かったが、他の7人も同じ色になりつつあった。


アイリスが先行索敵を続けながら、少し後ろのユイへ声をかけた。


「氷洞まであと半日くらい。でも……獣の気配が全然ない。逃げてる?」


ユイは足元の霜を踏みながら答える。


「分かった。隊形は崩すな」


カイルが珍しく真顔をしていた。隣を歩くハンスが無言で周囲を見渡している。誰も喋らない。山道の静けさの中に、鳥の声ひとつない。


「嫌な感じですね」


カイルが小さく言った。エルザが前を向いたまま、何も言わない。


氷洞の入口に着いたのは昼を少し過ぎた頃だった。


高さ10メートルを超える氷の崖が、山肌に食い込むように口を開けている。入口から白い霧が流れ出し、数メートル先で空気に溶けていく。足元の岩に薄い氷の膜が張っていた。


「入口で止まれ。構成を確認する」


ユイが告げ、8人が一列から固まりに変わる。


「アイリスとエルザが先行。ハンスとカイルが前衛。セイラ、セリス、リリアは中後衛。わたしが中央。よほどのことがない限り隊形を変えない」


「了解」


全員が同時に答えた。


洞窟の内側へ踏み込むと、気温が一段落ちた。セリスが少し肩を縮める。松明の火が青白く変色する。橙色のはずの炎が、ここでは違う色をしていた。


壁を覆う氷の結晶が光を散らしている。踏み出すたびに靴底の音が響き、その余韻が長く尾を引く。生き物の気配がない。風もない。音が響くだけで、洞窟そのものが静まり返っていた。


「静かすぎます」


セリスが小声で言い、ユイも同じことを感じていた。岩場も深森も山岳も、内側に入れば何かの気配があった。湿原でさえ、霧の中に水生の小動物が動いていた。だがここには、何もいない。


逃げたのか。それとも最初からいないのか。


アイリスが前方から手を上げた。立ち止まれ、という合図だ。


「水じゃない。でも……似た何かがいます」


セリスが短く言った。水感知が反応している。杖を持つ手が少し固まっていた。


「どの方向だ」


「正面。あと10メートルくらい」


ユイが前を向いた。


白い霧が洞窟の奥に溜まっている。霧の中心部が、ほんの少し、輝いていた。


青白い光が、ゆっくりと瞬いている。呼吸するように、一定のリズムで。


「全員、止まれ。距離を保て」


ユイが静かに言い、カイルとハンスが盾の位置を下げた。エルザが音もなく右側の岩陰に滑り込む。アイリスが天井近くの突起に手をかけ、高い位置をとる。


霧の中の光が、こちらに気づいた。


輝きが増した。

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