第122話 地図に5本目の線
夕食が終わり、全員が部屋へ引き上げた。
セリスが作った料理は温かく、湿原の疲れが少し和らいだ。カイルが「おいしかったです」と言い、セリスが「よかったです」と答えた。その会話が廊下に消えていく。ハンスの重い足音が階段を上り、やがて静かになった。
ユイは自分の部屋に戻り、扉を閉めた。
机の前に座り、引き出しから地図を取り出す。
前回広げた時から、折り目に3つの印がついている。岩場。深森。山岳。自分でつけた印だ。
今日、4点目が加わった。
湿原の位置に、ゆっくりと印をつける。インクが紙に滲む。
4点を指でなぞる。
岩場から深森へ。深森から山岳へ。山岳から湿原へ。線が伸びている。自然な方向がある。偶然では揃わない角度だ。
次のフィールドを頭の中で並べる。
氷洞。溶岩帯。雷原。
以前ゴードンと話した順番では、アイスエレメンタル、フレイムエレメンタル、サンダーエレメンタルの順に素材を集める予定だった。だがその順番は、素材の難易度と拠点からの距離で決めたものだ。地図上の方向とは別の話だ。
指で線を延ばす。
4点を繋いだ線の先へ、ゆっくりと指を動かす。
氷洞の位置が、線の方向に近い。
溶岩帯は南に外れる。雷原は東に寄りすぎる。氷洞だけが、4点を繋いだ延長線上に重なる。
偶然かもしれない。
だが岩場から始まり、深森、山岳、湿原と続いてきた方向は、一度もずれていない。4点全部が同じ向きに並んでいる。
ユイは地図から目を離さない。
アイリスには今日、4箇所の方向が揃っていると話した。それ以上は言わなかった。言えなかった。根拠のない先の話を持ち出すより、装備を完成させることが先だという判断は変わらない。
リリアの「わかりましたわ」が、頭の中で繰り返される。
昨夜の温度と、山岳の夜の温度が、少しずれている。そのずれがどこへ向かうのか、ユイには分からない。装備が完成したら話す。全部まとめて話す。その時に修復できるずれであってほしいと、どこかで思っていた。
エルザが水辺を振り返った動作を思い出す。
何も言わなかった。それでいいと思った。だが、何も言わない仲間が増えていく感覚が、じわりと重くなる。
地図に視線を戻す。
5点目の位置に指を置く。
氷洞。地図上に記載がある。冒険者が調査に入った記録もある。名前のある場所だ。だが、その先に何があるのかは書かれていない。
ユイは線の先へ指を延ばそうとして、止まった。
氷洞より先。地図の空白。
そこには何も書かれていない。地名もない。地形の記録もない。未踏か、記録されていないか、あるいは記録できなかったのか。
判断する材料がない。
今は関係ない、と頭の中で繰り返す。氷洞へ行くのは素材収集のためだ。アイスエレメンタルの元素核が必要だ。地図の方向が一致していることは、ただの事実として頭に置いておく。それだけだ。
ユイは地図を折り畳もうとして、止まった。
5点目の場所に、もう一度指を置く。
氷洞の先の空白。
その場所には、地図上で何も書かれていない。行ったことがないのか、それとも——行けなかったのか。
地図を折り畳んだ。
折り目が、4つの印の上を通った。
部屋の灯りが揺れる。外は静かだ。湿原の湿気が遠くなり、王都の乾いた夜の空気が窓から入ってくる。
装備を完成させることが先だ。
次は氷洞。アイスエレメンタルの元素核。それだけを考えればいい。
ユイは地図を引き出しに戻し、灯りを消した。
第15章 完
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