第121話 ゴードンへの報告と、手帳の行方
拠点に戻ったのは、日が落ちる前だった。
荷物を下ろし、素材の確認をする。再生石が必要数を満たしている。泥核も回収できた。湿原での遠征として、収穫は十分だ。
「ゴードンのところへ行く。素材を届ける」
「私も行きます!」
カイルが言う。
「いい。2人で行く。他は休んでいろ」
全員が頷く。セリスが「夕食は作っておきます」と言い、エルザが無言で装備を外し始める。
ユイとカイルは素材を持って鋼鉄の爪亭へ向かった。
夕暮れの街道は人通りが少ない。石畳に足音が響く。ゴードンの店はすでに灯りが点いていた。扉を開けると、作業場の奥で何かを叩く音がする。
「来たか」
ゴードンが振り返らずに言う。金属を叩く手を止め、作業台の前に立ったまま布で手を拭く。50代の厚い背中が、炉の明かりに照らされている。
ユイが素材を台に並べた。
再生石が6個。泥核が4個。
ゴードンが1つずつ手に取る。光に透かし、重さを確かめ、表面を親指で押す。無言の時間が続く。カイルが少し緊張した様子で立っていた。
「質はいい」
ゴードンが言った。
「湿原のゴーレムにしては取れた方だ。泥核も均一に固まってる。戦い方が安定してきたな」
「戦術を変えた」
「ほう」
ゴードンが再生石を台に戻す。
「足場の問題は」
「全員、消耗した。ただし戦闘不能者は出なかった」
「そうか。湿原は体力より判断力が削られる。よく切り上げた」
短い評価だったが、ゴードンの言葉は無駄がない。ユイは頷いた。
「次の素材は何が残っている」
「元素核だ。アイスエレメンタル、フレイムエレメンタル、サンダーエレメンタル。どれも一筋縄ではいかない」
「氷洞か、溶岩帯か、雷原だな」
「ああ。装備の進捗を確認してから順番を決めろ。焦って質の悪い核を持ってきても使えん」
「分かった」
カイルが「ゴードンさん、今の装備の強化はどれくらい進んでいますか」と聞く。ゴードンが棚から書き付けを取り出し、ざっと確認する。
「再生石が揃ったことで、防具側の強化が次の段階に入れる。残りは元素核だ。3種類全部揃えば、全員の装備が完成する」
「あともう少しですね」
「急ぐな。装備は完成してから意味がある。途中はただの金属だ」
カイルが「はい」と素直に答える。
ユイは素材の受け渡しを終え、礼を言って店を出た。
街道に戻り、次の目的地へ向かう。ギルドだ。
冒険者ギルドの受付にはマリアがいた。栗色のボブが灯りに照らされている。カウンターの前に他の冒険者が1人いたが、すぐに離れた。
「クロウフォールのユイさん、お疲れ様です」
マリアが丁寧に頭を下げる。
ユイは荷物の中から、布に包んだ手帳を取り出した。
「湿原で拾った。失踪案件の持ち物かもしれない。届ける」
マリアが受け取り、慎重に布を開く。革表紙の手帳。湿気で端が膨らんでいる。マリアが内容を確認しようとするが、大半のページが読めない状態だとすぐに分かった。
「最後のページだけ読める。ここで何かを見た、と書いてある」
「……拾われた場所はどちらですか」
「湿原の端。葦の茂みに押し込まれていた。食料も一緒にあった。3週間以上前のものだ」
マリアが手帳を丁寧に扱いながら、記録用の帳面を開く。
「失踪案件として調査中の方の持ち物と一致するか確認します」
「他にも届けられた品はあるか」
マリアが少し考えた。視線が一度下に向く。
「……実は、1件だけ。山岳から、先月届きました」
ユイの呼吸が、わずかに止まった。
「方向は同じか」
「……少々お待ちください」
マリアが棚から地図を取り出した。広げて、カウンターに置く。2つの地点を指で示す。山岳の報告地点と、今日ユイが届けた湿原の地点。
ユイは地図を確認した。
方向は同じだ。
「今後もこういうものが届いたら教えてくれ。場所の情報が欲しい」
「クロウフォールとして依頼として受けますか」
「まだ受けない。ただ情報だけ」
マリアは少し間を置いてから、頷いた。
「……承知しました」
ユイは礼を言い、ギルドを後にした。
カイルが外で待っていた。「何か分かりましたか」と聞く。
「山岳でも同じものが届いていた」
「それって……」
「今は分からない。帰ろう」
カイルはそれ以上聞かなかった。
マリアはその要求を記録した。後で見返した時、彼女は少し考えてから、その依頼欄を空白にしておいた。
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