第120話 4点目の意味
帰路は街道沿いを歩いた。
湿原を抜けると足場が戻り、全員の歩幅が自然と広くなる。泥の重さから解放された分、体が軽く感じる。陽が傾き始め、草地が黄みがかった光に染まっていた。
しばらく歩いたところで、アイリスがユイの隣に並んだ。
前を向いたまま、歩くペースを合わせる。
「岩場。深森。山岳。湿原」
静かに言った。雑談ではない。確認だ。
「全部で誰かがいなくなってる」
ユイは前を向いたまま歩く。
「ユイはもう気づいてるでしょ」
「気づいてる」
「いつから」
「岩場から」
アイリスが少し黙った。後ろの会話が聞こえないよう、2人の間隔が自然と広がっていた。他のメンバーは少し後ろを歩いている。カイルとセリスが何か話している声が遠く聞こえる。
「……それで黙ってたの」
責める口調ではなかった。ただ、重さがある。
「根拠がなかった。今も完全な根拠はない。だが4箇所目で、方向が揃っている」
「方向?」
「3点を結ぶ線。4点目もその延長にある。どこかへ向かっている」
アイリスは少し考えた。草地を踏む足音が続く。
「……それ、みんなに話した方がいいんじゃないかな」
「次の素材を揃えてから話す。今は動けない」
「なんで」
「装備が半分しかない。不完全な状態で動いたら、仲間を危険にさらす」
アイリスが前を向いたまま、少し間を置いた。
「その線の先に何があるの」
「分からない」
短く答えた。それ以上は言わない。地図上の空白。3点から延ばした線の先。そこに何があるのか、ユイ自身も言葉にできない。
アイリスが「ふうん」と言った。
軽い音だったが、考えている顔だ。
「……ユイは責任感が強すぎる」
「そうかもしれない」
「否定しないんだ」
「否定できない」
アイリスが少し笑った。声には出さなかったが、横目で見えた。
「みんなに話すのは、装備が揃ってからなんだね」
「ああ」
「それまでは私も黙ってる、ってこと?」
「頼む」
少し間があった。
「……分かった。でも」
アイリスが前を向いて歩き始めた。
「急ぎすぎるなよ。一人で全部抱えると、判断が歪む」
ユイは何も答えなかった。
否定はしなかった。
アイリスは前を向いて歩き続ける。ユイも同じ方向を向いて歩く。2人の間に、少し新しい種類の沈黙があった。
後ろから、カイルの声が聞こえた。
「ユイさん、今夜の夕食はセリスさんが何か作るらしいですよ」
「……そうか」
「楽しみですね!」
「ああ」
平和な声だった。
ユイはその声を聞きながら、頭の中で地図を描く。
4点。揃っている。方向が揃っている。
次は氷洞か、溶岩帯か、雷原か。
装備を完成させることが先だ。
それだけを、繰り返した。
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