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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第15章 泥の底に、何かが沈んでいる

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第119話 エルザと水辺

翌朝は霧が薄かった。


夜の間に風が動いたらしく、葦の茂みが揺れている。水面が昨日より明るく見える。全員が朝食を終え、残りの素材確保のために湿原へ戻った。


追加のマッドゴーレムが2体。昨日の戦術をそのまま使えば対処できる。消耗を抑えながら確実に仕留める。それだけだ。


歩きながら、ユイは全員の動きを確認する。


消耗は回復している。セリスの水感知も昨日より落ち着いた様子で、杖を持つ手に余裕がある。セイラの氷槍の形成速度も戻っている。リリアが地図を確認しながら歩く。カイルが「今日で素材が揃いますね」と言い、ハンスが無言で頷く。


エルザだけが、いつもと少し違う動き方をしていた。


足元を選ぶ動作が慎重だ。山岳でもそうだったが、今日の慎重さは種類が違う。山では岩の脆さを読んでいた。今日は水面から距離を取っている。湿地の端を歩くとき、水際に近づかないよう自然に内側へ寄る。


アイリスがユイの横に並んだ。


「エルザ、水辺が苦手って昨日言ってたけど、なんかあったのかな」


声を落として言う。索敵しながら、視線は前を向いたままだ。


「聞くな」


ユイが短く返す。


「え、なんで?」


「本人が話す時に話す」


アイリスは少し考えた。エルザの背中を見る。黒装束が朝の光の中を歩いている。水際から一定の距離を保ちながら、前を向いたまま動いている。


「……ユイってそういうとこあるよね」


「何が」


「待てる人なんだよね。人が言えるタイミングまで待てる」


珍しく真面目な顔をしていた。からかいも軽口もない。ただ、そう思ったから言った、という顔だ。


ユイは何も答えない。


「でも」


アイリスが少し間を置いた。


「……自分のことは話せないじゃん」


小さく言った。責める声ではなかった。どちらかといえば、困ったような、そういう声だった。


ユイは前を向いたまま歩き続ける。


返事をしなかった。


湿原での作業が始まった。


セリスが水感知で核の位置を探り、リリアが泥を剥がし、セイラが核を割る。昨日と同じ流れだが、全員の動きに迷いがない。1体目が崩れ、2体目が崩れた。素材の回収も手順通りに進む。


再生石を確認し、必要数を満たしたことを確認した。


「これで揃った。撤収する」


「やりましたね!」


カイルが言う。


帰路につく前に、アイリスが最後の索敵に出た。エルザは素材の梱包を手伝っている。


荷物をまとめ終えた頃、エルザが一度だけ振り返った。


来た方向ではなく、水面の方向だ。


広い水面が広がっている。霧は薄く、水草が揺れている。何かがいるわけではない。音もない。ただの湿原の風景だ。


エルザはそこを見ていた。


2秒か、3秒か。


それから前を向いた。何も言わなかった。


ユイはその動作を見ていたが、声をかけなかった。


エルザは何も言わなかった。それで十分だった、とユイは思うことにした。


全員が揃い、帰路につく。湿原を抜けると、空気が軽くなる。乾いた草地の匂いが戻ってくる。


「やっぱり足場が普通だと歩きやすいですね」


カイルが言い、


「ほんとですね」


とセリスが答えた。


ユイは歩きながら、今日の作業を頭の中で整理する。


素材は揃った。再生石の確保は完了だ。あとは帰還してゴードンへ届け、ギルドへ手帳を持っていく。それだけだ。


それだけのはずだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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