第116話 泥の中の核
セリスが先頭を歩く。
水晶の杖を胸の前に持ち、視線を水面に向けながら進む。いつもとは違う歩き方だった。周囲の音ではなく、足元から伝わる何かを読んでいるような、そういう集中の仕方だ。
ゴーレムが姿を現した。
霧の中から盛り上がり、泥を滴らせながら立ち上がる。着地の衝撃で泥が飛ぶ。全員が反射的に構えを取った。
「カイル、前」
「行きます!」
カイルが盾を構えてゴーレムの正面へ出る。ゴーレムの注意がカイルに向く。腕が振り上げられた。
その間にセリスが動いた。
ゴーレムの右側へ回り込む。水面すれすれを歩きながら、杖の先を水面に向ける。目を細め、何かを追っている。
「……こっちです」
低い声で言った。
左側、ゴーレムの腰の高さ。そこを指した。
「リリア」
「分かりましたわ」
リリアが長杖を構える。水魔法の術式が展開され、ゴーレムの表面に向けて流れが集まる。面全体ではなく、セリスが指した一点に絞る。
泥が、動いた。
表面の泥が剥がれ、流れ落ちる。内部が露出し始める。灰黒色の、石のような塊が現れた。
「セイラ」
セイラはすでに構えていた。
氷槍が放たれた。
塊を貫く。
ゴーレムの動きが止まった。カイルへ振り上げていた腕が、中途半端な位置で固まる。全身がぶれるように揺れ、崩れていく。
「ハンス」
「……承知した」
ハンスが前に出る。崩れかけたゴーレムに向かい、ハンマーを振り下ろした。泥の塊が四方に飛び散り、ゴーレムが完全に崩壊する。水面に広がり、波紋が消えた。
静かになった。
全員がしばらく動かなかった。
「……終わった?」
アイリスが霧の向こうを確認しながら言う。
「終わった」
ユイが答える。
「セリスさん、すごいじゃないですか!」
カイルが振り返って言った。前回の戦闘とまったく違う決着だった。同じゴーレム系でも、戦術が噛み合えばここまで変わる。その驚きが率直に出ている。
「えっ……いつもはそういう場面じゃなかったので……」
セリスが照れたように後頭部に手を当てる。頬が少し赤い。
「今日は違いましたわ。核の位置を特定できなければ、この戦術は成立しなかった」
リリアが静かに言う。評価の言葉は飾らない。事実として述べる。
「ありがとうございます」
セリスが小さく答えた。
素材を回収する。泥核と再生石。ゴーレムの崩壊地点を探り、核の破片を回収する。泥の中に沈まないよう手順を確認しながら作業した。
2体目が現れたのは、回収の途中だった。
同じ手順で動く。セリスが核の位置を探り、リリアが泥を剥がし、セイラが割る。前回より流れが早い。全員が役割を掴んでいた。
3体目が現れた時、セリスの動きが止まった。
ゴーレムの周囲をゆっくり歩きながら、杖の先を水面に向ける。いつもより時間がかかる。
「……感じが違います」
「どう違う」
「核の位置が、さっきと違う場所にある気がして。いつもより上……たぶん、胸の真ん中あたりです」
「確信か」
「……7割くらいです」
正直な答えだった。ユイは少し考える。7割で動くか、慎重に確認を取るか。
「やれ。外れたら修正する」
「はい」
セリスが決めた場所をリリアに伝える。水流が集中する。泥が剥がれ、今度は上部から核が現れた。セイラの氷槍が貫く。3体目が崩れた。
アイリスが周囲の索敵に移った。
湿原の奥の方へ足を向け、葦の茂みを抜けていく。しばらくして戻ってきた。
いつもなら「異常なし」か「次の目標はこっち」と言う。
今回は違った。
「ねえ、ちょっと来てほしいんだけど」
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