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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第14章 山と、消えた痕跡

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111/122

第111話 山岳の夜と、静かな会話

山の夜は深かった。


街の明かりは届かない。星だけが岩肌を薄く照らし、焚き火の光が岩陰に小さな円を作っている。風は日中より穏やかになったが、気温は下がり続けていた。全員が焚き火を囲み、黙って体を休めている。


食事を終えると、少しずつ声が戻ってきた。


カイルが膝に肘をつき、今日の戦闘を思い返している。しばらくして口を開いた。


「傾斜に誘導する発想、エルザさんはどこで覚えたんですか。岩場での戦いとか、訓練でやった記憶がないんですが」


エルザは焚き火を見ていた。少し間を置き、短く答える。


「……昔、山にいた」


「山に?」


カイルが続きを聞こうとする。だがエルザは視線を火から動かさない。それ以上語る気配はなかった。


「そういう話は後で」


セリスがカイルの腕を軽く引く。声は明るいが、これ以上踏み込まない方がいいという意思が滲んでいた。


「はい」


カイルは素直に引き下がる。


炎が揺れ、赤い光がエルザの瞳に映る。


しばらくして、セイラが口を開いた。


「……山は、下より静かだ」


誰に向けたわけでもない。


「そう? あたしはちょっと静かすぎる気がするけど」


アイリスが膝を抱えたまま周囲に耳を澄ませる。


「昨日も今日も、鳥の声が全然しなかったよ。山って、もっと生き物の声がするものじゃないの?」


すぐには誰も答えない。


深森の夜と同じだ、とユイは思う。生き物の気配が薄い。あの時も最初に違和感を口にしたのはエルザだった。


焚き火を見つめたまま、ユイは何も言わない。


「……そうね」


エルザが静かに同意する。


焚き火の向こうで、リリアがユイを見る。


「ユイ」


静かな呼びかけ。


「……気になることがあるんですの?」


回りくどさはない。


ユイは少し考え、短く答えた。


「確認してから話す」


リリアは数秒だけ見つめ、それから頷く。


「わかりましたわ」


それ以上は問わない。根拠のない段階で広げないという共通理解がある。


ハンスは焚き火の端に座り、ほとんど動かない。岩のような安定感。


セリスが水を足して回る。


「明日も頑張りましょうね」


声はいつもより少し小さい。


「そうですね」


カイルが返す。


「ゴーレム戦、最初より全然違いましたね」


「連携がまとまってきた」


ユイが答える。


「次に繋がりますね」


「ああ」


会話が途切れる。


焚き火の音だけが残る。


眠りにつく者が増える。セリスが先に目を閉じ、ハンスはすでに動かない。カイルも横になった。


アイリスはまだ起きている。索敵の癖が眠りを遅らせる。


エルザも目を閉じない。


ユイも眠らない。


焚き火が小さくなり、山の夜がさらに深くなる。


夜明け直前、音が届いた。


山の奥から低い響き。地鳴りに似ているが違う。均質で、遠い。岩が崩れる音でも、風の唸りでもない。


ユイは立ち上がらない。ただ、その方向を見る。


音はすぐに消えた。


焚き火は静かに燃えている。


全員が眠っていた。


その音を聞いたのは、ユイだけだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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