第110話 長期戦の疲労
「陣形を戻せ」
ユイの声に全員が動いた。回収作業を中断し、それぞれが戦闘位置につく。疲労が積み重なっている中での3体目だった。
カイルとハンスが前に出る。2体目の討伐直後で、2人の消耗は隠せない。それでも大盾を構えたカイルの足は、しっかりと岩盤を踏んでいた。
3体目のゴーレムは2体目と同じ大きさだった。ゆっくりと近づいてくる。その動きに焦りはない。ただ、重い。
「誘導する余裕はない。正面から対処する」
「了解です!」
2体目で確立した戦術を使う。ただし全員の消耗を考えれば、時間をかけすぎるわけにはいかない。
セイラが氷槍の構えを取った。
「……消耗が大きい」
「わかってる。1発ずつでいい」
セイラが頷く。吐息が白い。表情は変わらない。だが、氷槍を形成する速度が、1体目の時よりわずかに遅かった。
ゴーレムが腕を振る。カイルが流す。ハンスが方向を変える。今度は傾斜地に誘導する必要はない。2体目を倒した際に崩れた岩の段差が、自然な障害物になっていた。
「そこへ誘い込め」
カイルが後退しながらゴーレムを引きつける。足場が悪い方向へ、少しずつ誘導する。2体目の経験が活きていた。体で覚えた感覚が、判断を早くしていた。
セイラが氷槍を放つ。関節の接合部に当たる。亀裂が入る。
エルザが跳ぶ。岩の段差を踏み台に、肩口の関節へ短剣を差し込む。今度は届いた。刃が接合部の亀裂に食い込む。
「いける」
アイリスが側面から投擲ナイフを当て続ける。精度が落ちている。腕の疲れが出ていた。それでも急所を外さない。
ゴーレムの動きが鈍くなる。
カイルとハンスが押す。流すのではなく、最後だけ押す。ゴーレムが崩れた岩の段差に乗り上げ、バランスを崩した。
リリアが光魔法で核の位置を照らし出す。
「今ですわ」
ユイが前に出る。風刃斬を核に向けて連続で放つ。3体目は2体目より手応えが早かった。連携が噛み合っている。4撃目で核にヒビが入り、5撃目で光が消えた。
ゴーレムが崩れる。
全員が動きを止めた。
沈黙が続く。誰も声を上げない。カイルでさえ、今回は何も言わなかった。
セリスが素早く動く。全員のもとを回り、回復魔法を巡らせる。術式が一瞬揺らぐ。立て直す。消耗が見えていた。
「ありがとうございます」
カイルが短く言う。
ユイは全員の状態を確認する。
目に見える怪我はない。ただ、消耗が累積している。セイラの氷槍の速度が落ちていた。リリアの光魔法の術式が揺れた。アイリスの投擲精度が落ちている。ハンスの足取りが、わずかだが重い。
戦える。ただし長くはない。
「3体目を片付けたら撤収する」と言ったのは戦闘前の自分だ。その判断通りだ。
「素材の回収をする。それが終わったら下りる」
全員が頷く。
3体分の魔石と硬岩を回収する作業が始まる。エルザが無言で手を動かす。アイリスが数を数える。
回収しながら、エルザが周囲を見渡した。
「……この辺り、モンスターの密度が高い」
独り言のような声だったが、全員に届いた。
「……前の記録より多い」
ユイが短く頷く。
エルザが少し間を置いてから、静かに問う。
「……原因に心当たりはあるか」
ユイは素材の確認に視線を落としたまま、少しだけ間を置く。
「今は断言できない」
それ以上は聞かれない。
魔石6個、硬岩4個。ゴードンから聞いた必要数には、少し足りない。もう1日山に残れば届く。だが全員の消耗を見れば、今日これ以上戦わせるのは無理だ。
戻るか、ここで1泊するか。
すぐには決めない。夜の山を安全に過ごせるかどうか、まず全員を休ませる。
「今日はここまでだ。休息を取る」
全員が岩陰に腰を下ろす。
焚き火の準備を始めるセリスの横で、誰かが呟いた。
「あのキャンプ跡の人たちは、どこへ行ったんだろう」
誰の声だったかは特定できなかった。
返事はない。
焚き火の火が、小さく揺れた。
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