第109話 岩を倒す方法
翌朝、全員の状態を確認してから動いた。
セリスが各自の消耗を確認し、回復魔法を最低限に抑えながら巡らせた。キャンプを張った場所は岩陰で風が遮られ、思ったより体が休まっていた。ただ、山の夜は冷えた。セイラ以外の全員が、朝の空気に肩を縮めた。
「昨日と同じ個体が戻ってくる可能性はあるか」
カイルがユイに確認する。
「ゴーレムは縄張りを持つ。同じ個体が同じルートを動く。あの傾斜地の手前で待てば、おそらく来る」
「了解です」
全員が昨日確認した傾斜地へ向かった。岩盤が斜めに傾いた地形だ。大型の重量物がその上に乗れば、自重でバランスを崩す。エルザが提案した場所だった。
待つ時間は短かった。
遠くの岩肌が動いた。ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。昨日と同じ個体だ。
「始める」
ユイの声に全員が動いた。
カイルが前に出た。大盾を構え、ゴーレムの正面に立つ。ゴーレムがカイルを認識し、腕を振り上げた。
「来ます!」
カイルは受け止めるのではなく、斜め後ろに体重を移した。押し合いではなく流す。ハンスが横から加勢し、ゴーレムの腕の軌道をわずかに変える。完全に受け止めない。方向だけを変える。
ゴーレムが一歩前に踏み出す。傾斜地の方向へ、少しずつ誘導していく。
「セイラ」
「……わかった」
セイラが氷槍を放つ。ゴーレムの左肘の関節に当たる。昨日と同じ箇所だ。昨日の亀裂が残っていれば、さらに深まるはずだった。
接合部から細かい破片が散る。亀裂が広がっている。
「効いてる」
アイリスが確認する。
カイルとハンスが交互にゴーレムの注意を引きながら、少しずつ位置をずらす。ゴーレムはゆっくりと向きを変え、追いかける。その重い足取りが、傾斜地の端へ近づいていく。
「もう少し右だ」
ユイが指示を出す。
カイルが右側に出て意識を引きつける。ハンスが左から圧力をかける。ゴーレムが右へ向き直した。傾斜の一番急な位置に、ゴーレムの左足が乗った。
「セイラ、もう一発」
「……了解」
2発目の氷槍が左膝の関節に当たる。亀裂が走る音がした。
ゴーレムの左足がわずかに沈む。傾斜地の岩盤が、その重さに負けた。
「押すな、流せ」
カイルとハンスがゴーレムの上体に圧力をかける。押すのではなく、重心が崩れる方向へ、わずかに誘導する。
ゴーレムの巨体が、ゆっくりと傾いた。
踏みとどまろうとして、左膝が折れる。関節の亀裂が限界を超えた。
倒れた。
地響きが足元から伝わってくる。岩盤に巨大な岩塊が叩きつけられた音だった。
「核を出せ!」
リリアが光魔法を発動させる。淡い光がゴーレムの胸部を照らし出す。岩の表面の奥、薄く光る核の位置が浮かび上がった。
アイリスとエルザが左右から動く。転倒したゴーレムの胸部へのルートを作るため、側面の岩を削る。エルザの短剣が外皮の薄い箇所を正確に突き、アイリスの投擲ナイフが亀裂の入った部分を叩く。
通路が開く。
ユイが前に出る。
風刃斬を核に向けて放つ。
1撃目。核の表面に傷がつく。
2撃目。亀裂が走る。
3撃目。深く食い込む。
4撃目。ゴーレムの動きが鈍くなる。倒れたまま腕を動かそうとするが、制御が乱れている。
5撃目。
核に深いヒビが入り、そこから光が漏れ出す。
ゴーレムの動きが止まる。腕が岩盤に落ち、そのまま動かなくなる。全身の岩が少しずつ崩れ始め、核の光が消えた。
静かになった。
全員が息を整える。
「やりましたね!」
カイルが声を上げる。疲労が滲んでいるが、笑っていた。
「……そうだ」
ハンスが短く頷く。
魔石と硬岩の回収を始める。ゴーレムが崩れた岩の中から、核の欠片と硬岩を慎重に取り出す。前回の失敗から学んだ連携が、今回は機能した。消耗も昨日より明らかに少ない。
ユイは回収作業を見ながら、周囲を確認した。
ゴーレムの個体数が多い。岩場や深森でも感じた感覚と同じだ。前世の記憶より、確実に密度が上がっている。
その考えが頭をよぎった瞬間、アイリスの声が飛んだ。
「3体目、来ます」
岩肌の向こうから、新たなゴーレムが姿を現した。
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